米国航空宇宙局(NASA)は2023年1月26日、従来のロケットエンジンとは異なる仕組みで動く「回転デトネーション・ロケットエンジン」の燃焼試験に成功したと発表した。

このエンジンは「デトネーション(爆轟)」と呼ばれる超音速燃焼現象を使用して推力を生み出すという仕組みで、従来のロケットエンジンより少ない推進剤でより多くのエネルギーを生み出すことができ、月や火星などの深宇宙への有人飛行や探査機の飛行に大いに役立つ可能性を秘めている。

  • NASAが実施した回転デトネーション・ロケットエンジンの試験の様子

    NASAが実施した回転デトネーション・ロケットエンジンの試験の様子 (C) NASA

回転デトネーション・エンジン

従来のロケットエンジンは、燃料と酸化剤からなる推進剤を「燃焼」させ、生成された高温高圧のガスを噴射することで飛行する。そのエネルギーは、私たちの感覚からするとものすごいものの、実際には燃焼という化学反応は比較的反応速度が遅く、放出エネルギーも小さい。また、現代のロケットの性能は理論的な限界に近いところにまで達しており、これ以上性能を上げることは難しい。

そこで研究されているのが、「デトネーション(爆轟)」という現象を使ったエンジンである。デトネーションとは燃焼が衝撃波を伴いながら音速以上で伝播していく現象のことで、言葉こそ聞き慣れないものの、発破作業で使われるダイナマイトを点火したときに見られるほか、2020年に起きたレバノン・ベイルートの爆発事故でも見られた現象でもある。

通常の燃焼では、燃焼したガスが膨張すると、燃え切っていない未燃ガスはそのまま外側へ押し出される。しかしデトネーションは、火炎面の伝播が超音速で進むため未燃ガスは外へ逃げず、さらに火炎面が達したときに未燃ガスが急激に圧縮され、温度と圧力が瞬時に上昇する。これにより莫大なエネルギーを発揮できる。

ただ、このデトネーションをエンジンとして、つまり安全、安定的に推進力を生み出す機械として使うには、エンジンの構造などを工夫しなければならない。そのため、原理自体は古くから知られているものの、実用化された例はない。

現在、この現象を用いたエンジンとして開発されているのは、「パルス・デトネーション・エンジン(PDE)」と「回転デトネーション・エンジン(RDE)」の主に2つである。

PDEは、細長い燃焼器内で間欠的にデトネーションを伝播させ、生成されたガスを噴射することで推進力を得る。一度ガスが噴射されると、ふたたび燃焼器内でデトネーションを起こし、さらにそれを繰り返す必要もあり、このため間欠的、つまり息継ぎをするような瞬間が生まれる。また、長いパイプ状の燃焼器が必要であることから、ロケットや宇宙機の設計に制約も生まれる。

一方RDEは、円筒形の燃焼器の中で、デトネーション衝撃波が円を描くように進むという仕組みをしている。これにより、新たに送り込まれる推進剤に連続的に点火し、デトネーションを起こし、そして連続的に推力を発生させることが可能になる。また、PDEよりエンジンをコンパクトにできるという利点もある。

ただ、円形の燃焼器内でデトネーション衝撃波がどのように旋回しているのかを見ることが難しく、計測やシミュレーションなどの研究が困難という課題もある。

PDEとRDEの両方に共通する利点として、大気を取り込んでジェットエンジンとして動かしたり、酸化剤(液体酸素)を送り込んでロケットエンジンとして動かしたりできるため、単一のエンジンで地上から宇宙まで飛行できるということがある。さらに、機体が静止している状態から稼働できるため、ラムジェットエンジンやスクラムジェットエンジンのように、起動のためにあらかじめ別のエンジンで加速させる必要もない。

そしてなにより魅力的なのは、RDEが実用化できれば、理論上は従来のロケットエンジンより効率が25%も向上すると考えられている点であり、従来のロケットエンジンより少ない推進剤でより多くのエネルギーを生み出すことができ、月や火星などの深宇宙への有人飛行や探査機の飛行に大いに役立つ可能性を秘めている。

NASAの回転デトネーション・ロケットエンジンの燃焼試験

こうした中、NASAは「ゲーム・チェンジング技術プログラム」という技術開発計画において、かねてより回転デトネーションを用いたロケットエンジン(RDRE)の研究を行ってきた。そしてマーシャル宇宙飛行センターと、インディアナ州にある民間企業IN Spaceが共同で、RDREの試験用エンジンを開発。燃焼試験が行われた。

このエンジンの素材には、NASAが開発した銅合金「GRCop-42」が用いられ、製造には3Dプリンターや従来にはない設計プロセスが用いられている。

そして2022年、マーシャル宇宙飛行センターにおいて燃焼試験を実施。十数回にわたり試験を繰り返し、最大推力は約17.8kN、累計の燃焼時間は約10分に達したという。

また、推力を小さくしたり大きくしたりするスロットリング技術や、エンジン内部で点火して燃焼させるプロセスなど、実際にロケットや宇宙機に組み込んで動かす際に必要となる技術の実証も行われた。

試験の成功を受け、NASAは「将来的に、実際のロケットや宇宙船でこの技術を使用できる可能性が見えてきました。実用化できれば、これまでより大きな質量、多くの物資を深宇宙に運ぶことができるようになり、宇宙探査をより持続可能なものにすることができるでしょう」とコメントしている。

NASAでは今後、推力44.5kN(1万lbf)級で、再使用も可能なRDREを開発することを計画しており、従来の液体ロケットエンジンと比較するなどし、技術を磨いていきたいとしている。

  • NASAが実施した回転デトネーション・ロケットエンジンの試験の様子

    NASAが実施した回転デトネーション・ロケットエンジンの試験の様子 (C) NASA

デトネーション・エンジンの開発は世界中で行われており、NASAのほか米国の大学、ロシアや中国でも行われている。日本でも活発であり、2021年7月には宇宙航空研究開発機構(JAXA)が、推力500N級の深宇宙探査用デトネーション・エンジンで宇宙を飛行する実証実験に世界で初めて成功した。

また、日本のベンチャー企業「PDエアロスペース」はデトネーション・エンジンを使用した宇宙往還機の開発を行っており、昨年4月にはジェットエンジンとロケットエンジンを切り替え可能なRDEの実証実験に世界で初めて成功している。

参考文献

NASA Validates Revolutionary Propulsion Design for Deep Space Missions | NASA
観測ロケットS-520-31号機による深宇宙探査用デトネーションエンジン宇宙実証実験に成功 | 宇宙科学研究所