昨年2月、ごくありふれた規模の磁気嵐で約40基もの人工衛星が落下したのは、太陽が電気を帯びた粒子を大量に放つ現象「コロナ質量放出」が連続したためだったことを、国立極地研究所などの研究グループが突き止めた。粒子の吹き出しである太陽風の観測データと、大気のシミュレーションを基に、高度200キロで衛星が受ける大気の抵抗が想定以上に高まっていたことが判明。これまで問題視されなかったような磁気嵐でも、衛星に致命的に影響し得ることが分かった。

昨年2月3日、米スペースX社が小型衛星49基をロケットで打ち上げたが、折悪く磁気嵐が発生し約40基が目標高度に達せず、落ちて失われた。衛星群がロケットから分離したのは高度200キロ付近。この高度の大気は観測が難しいが、極域で最大25%程度の密度の増減が知られ、衛星に影響しないとみられてきた。今回の磁気嵐はありふれたものとみられたが衛星多数が失われ、注目された。同社は衛星の飛行データを基に、衛星が通常より50%大きい大気の抵抗を受けたとしている。

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    コロナ質量放出が立て続けに起きた(国立極地研究所提供)

研究グループはまず、探査機などによる太陽活動の観測データを詳しく調べた。その結果、この時は12時間ほどの間隔で2回のコロナ質量放出が起き、粒子が地球に到達して2回の磁気嵐が起きたことが分かった。

さらに、全地球大気の物理過程を計算できるシミュレーションモデル「ガイア」を使うと、当時、磁気嵐に加熱されて膨張した大気が極域から低緯度に広がり、密度が広域に50%増加したことが示された。この値は、大気の抵抗が50%大きかったとするスペースX社の情報とも整合した。

一方、これまでの衛星の観測データから構築した経験モデルに基づく計算では、この時の密度増加は25%程度にとどまった。こうした結果から、ガイアのモデルは従来のモデルより再現性が高く、またリアルタイムに予測できることが分かった。

なお大気の激しい加熱は、磁気嵐により大気中の電流が増大し、大気が抵抗となって起こる「ジュール熱」であるという。

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    ガイアが計算した高度200キロの大気密度。衛星を多数失った時期である世界標準時昨年2月4日午後9時の状態で、磁気嵐発生前からの変化の割合を表示。実際には刻々と変化している(国立極地研究所提供)

研究グループによると、大気密度は実際には地域ごとに分単位で刻々と変化しており、一時的に50~100%に達しても不思議はないという。これでは、運の悪い衛星は大気の抵抗を受け落ちてしまう。

国立極地研究所の片岡龍峰准教授(宇宙空間物理学)は「高度200キロはわれわれにごく近い宇宙なのに、一番分かっていない不思議な空間。巨大磁気嵐やスーパーフレアのような激しい現象はよく研究されているが、日常的な弱い磁気嵐も精度よく把握しないと、宇宙利用にとって大きな損失が生じる。刻々と変わるものをリアルタイムに判断するため、観測と研究が重要だ」と述べている。

研究グループは国立極地研究所、情報通信研究機構(NICT)、成蹊大学、九州大学で構成した。ガイアは九大、成蹊大、NICTが開発。成果は宇宙天気の国際専門誌「ジャーナル・オブ・スペース・ウェザー・アンド・スペース・クライメット」に昨年12月23日に掲載されている。

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    コロナ質量放出の想像図。電気を帯びた粒子が太陽から放出され、1~3日後に地球に到達し、人工衛星や地上の電子機器などに影響を与える(NASA提供)

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