岩手大学は1月30日、高温超伝導を示す物質と類似のペロブスカイト構造を有する希土類酸化物半導体を特殊な「サイトレイト法」で合成し、高い光触媒特性を示すことを明らかにしたと発表した。
同成果は、岩手大大学院 理工学研究科のダヤル・チャンドラ・ロイ大学院生、岩手大 理工学部の松川倫明教授、岩手大大学院 理工学専攻数理・物理コースの米内孝徳大学院生、同・荒木田南実大学院生、岩手大 理工学部の谷口晴香助教(現・名古屋大学大学院 工学研究科 講師)、同・西館数芽教授、同・會澤純雄准教授、物質・材料研究機構(NIMS)の松下明行名誉研究員、同・Lin Shiqi研究員らの共同研究チームによるもの。詳細は、エレクトロニクスやフォトニクスなどの材料に関連する分野全般を広く扱う学術誌「Journal of Materials Science: Materials in Electronics」に掲載された。
光の照射を受けて水を分解して水素を生成する光触媒は、水素エネルギー社会の構築に必須の物質だ。また同物質には、環境を浄化したり、ウイルスなどの有害物質を弱毒化したりできるなど、別の優れた機能も有する。
ただし、現在空気清浄機などに採用されている酸化チタンは、太陽光の下では十分な機能を示さないことが知られており、新規の光触媒材料の創製が望まれていた。そこで研究チームは今回、高い光触媒特性を示す物質を開発するため、サイトレイト法を用いてペロブスカイト構造を有する希土類酸化物半導体を合成することにしたという。そして、開発された希土類酸化物半導体が高い光触媒特性を示すことが明らかにされた。
今回の光触媒物質の組成の最適化には、機械学習が適用された。また、第一原理計算を用いて、希土類酸化物のペロブスカイト構造から光触媒特性に適したバンド構造の推定も行われた。こうして、光触媒半導体のバンドギャップを元素置換により制御することで、酸化型のものから水素を生成する還元型の光触媒特性を示す物質を得ることを実現したという。
加えて、開発された希土類酸化物半導体を用いた環境汚染物質除去のシミュレーションとして、太陽光に類似したスペクトルを有するキセノンランプを光源とした光照射によるメチレンブルー溶液分解実験が実施された。その結果、メチレンブルー溶液は光触媒粒子との反応により2時間ほどでほぼ完全に分解されることが確認された。研究チームはこのことからも、酸化型と還元型の2つの特徴を有する物質を組み合わせてハイブリッド化することにより、水分解による水素生成や有害物質の除去の効率的な実行が期待されるとする。
同研究チームは現在、植物の光合成機構と類似している「Zスキーム型ペロブスカイト系光触媒複合薄膜」の研究も進めているとした。