名古屋大学(名大)は1月30日、従来の巨大負熱膨張材料とは異なり、高価な金属を使用しない上、有害元素を使用しないことから環境にも優しい新材料「ピロリン酸亜鉛マグネシウム」を、性能を保持したまま産業応用しやすいマイクロメートル(μm)レベルの微粒子化に成功したと発表した。
同成果は、名大大学院 工学研究科の竹中康司教授、同・加納雅人大学院生、同・春日井涼太大学院生、同・工学部の金森達也学部生、名大発ベンチャー「ミサリオ」の共同研究チームによるもの。なお今回開発されたピロリン酸亜鉛マグネシウム微粒子は、2月1日から東京ビッグサイトで開催される展示会「nanotech 2023」の科学技術振興機構(JST)ブースにて展示・発表される予定だ。
通常の材料は、熱を加えれば体積が大きくなる「熱膨張」を示す。しかし中には、極めて稀ではあるが、温度が上がると逆に体積が小さくなる材料もあり、その特性は「負熱膨張」と呼ばれる。負熱膨張材料は、、熱が加わることで起こる部材の変形や異種材料間での剥離など、先端機器やシステムで問題となっているさまざまな不具合を解消する役割が期待されている。
これまで負熱膨張材料としては、「β-ユークリプタイト(LiAlSiO4)」や「タングステン酸ジルコニウム(ZrW2O8)」といった酸化物が知られ、これまでは特に安価で環境にも優しいβ-ユークリプタイトが実用化されてきた。しかし、熱膨張の制御に対する産業界からの要求はますます高まっており、近年はそうした従来材料の数倍から十倍超の巨大な負熱膨張も実現されている。ところが、これらの巨大負熱膨張材料は、ルテニウムやスカンジウムなどの高価な金属、あるいは環境に有害な鉛を含むことや、合成にコストのかかる高圧力が必要であることなど、実用上の課題を抱えていた。そのため、大々的な社会実装には至っていなかった。
こうした背景の下、名大の竹中教授らが2021年11月に発表したのが、上述した巨大負熱膨張材料の抱えていた課題を根本的に解決する、高性能かつ低コストで環境にも優しい新材料のピロリン酸亜鉛マグネシウムである。そして今回は、同材料をより広く産業利用できるようにするため、性能を保ったままでの微粒子化を試みることにしたという。その結果、1μmレベルの微粒子化に成功。研究チームは、このサイズの熱膨張抑制剤としては世界最高水準の性能としている。
熱膨張を示す通常の材料中に今回開発されたピロリン酸亜鉛マグネシウム微粒子を混ぜることにより、熱膨張の制御を必要とするあらゆる産業分野の多様なニーズに応えられるという。とりわけ、微細化や複雑化が進む電子デバイス分野では、構成する異種材料間の熱膨張差が深刻な問題となっている。それらを克服するためには樹脂フィルム、接着剤、基板などといった微小な部材の熱膨張制御が不可欠とされているが、それらの実現には熱膨張抑制剤をサブμmから1μm程度に微粒子化することが必要だった。今後はピロリン酸亜鉛マグネシウム微粒子を用いることにより、パワー半導体や3次元集積回路素子をはじめとした、先端電子デバイスの高機能化・省電力化・長寿命化に貢献できるとする。
ピロリン酸亜鉛マグネシウム微粒子は今後、ミサリオを通じて「PyroAdjuster(パイロアジャスター)」の商品名で、粒径1μm程度の量産品から試験供給される予定だという。さらに、粒径が1μmより小さいサブμmクラスの供給も視野に入れているとした。