自分だけの絵本を作ることができるNTT印刷のサービス「パーソナルちいくえほん」。この絵本を用いながら、NTTコミュニケーション科学基礎研究所(以下、CS研)と共に子どもの言葉と心の発達についての共同研究を行っているのが、幼保連携型認定こども園「るんびにこどもえん」だ。
今回、同園園長の楢﨑雅氏に、共同研究から感じた子どもへの影響、そしてこれからの保育園に求められる教育について、意見をうかがってみたい。
子ども自身が本の中に登場する「パーソナルちいくえほん」
「パーソナルちいくえほん」は、子ども自身が主人公となり、絵本の中に登場するという新しい体験を提供するサービス。CS研の「幼児語彙発達データベース」などから厳選された言葉を使って、オリジナルの絵本を作成できる。
現在のラインアップは、0~1歳向けのファーストブックシリーズ「おいで」「どうぞ」「あっ!」、1~2歳向けの「すきなもの」、2~4歳向けの「ひらがななまええほん」「カタカナなまええほん」、そして3~6歳ごろを対象とした「たくさんのきもち」となっている。
福岡県糸島市の幼保連携型認定こども園「るんびにこどもえん」は、CS研と共に、このパーソナルちいくえほんなどを用いて共同研究を行っているこども園の一つだ。
ゲーム感覚で行われているデータ取得
保育士・幼稚園教諭以外にも、調理師、社会福祉士、自閉症スペクトラム支援士など、さまざまな顔を持つ楢﨑氏。ADHD・ASD・LDなどの発達障害支援や、短大での保育士養成の非常勤講師、保育用AIを手掛けるスタートアップ企業とのやりとりなど、多岐にわたって活躍している。
楢﨑氏が共同研究に関わるきっかけになったのは、日本赤ちゃん学会の保育実践科学部会。ここでCS研の渡邊直美氏と出会い、互いにマーベル作品が好きということで意気投合したという。
「渡邊さんとは、アイアンマンのAIの話から感情教育の話に発展したことを覚えています。研究者のみなさんは、乳幼児期などをターゲットに素晴らしい研究をされています。しかし、日本はまだまだ縦割り社会で、保育現場との連携がまだ限られています。保育士は研究者に近寄りがたい、研究者は保育の現場にいないということで互いに引け目があります。この分厚い壁を取り除き、横のつながりを強化すれば、研究成果をもっと早く子どもたちに還元できるのではないかと感じました」(楢﨑氏)
その後、旧:るんびに保育園は園舎を建て替え、令和2年に認定こども園へ移行。楢﨑氏は、保育実践科学部会のワークショップでCS研の小林哲生氏との対面を果たし、そこからとんとん拍子で共同研究が始まった。
「私は研究者ではありませんが、自閉症スペクトラム支援士にも学会はあって、科学的な根拠をもって保育を見るというリテラシーがあります。心理ベースの基礎知識にある程度一致する部分があったので、対等な意見交換ができました」(楢﨑氏)
共同研究では、子どもたちがタブレット端末を用いて、ゲーム感覚でさまざまな幼児教育を行っているという。新しい園舎はWi-Fiを完備しており、スムーズにデータの取得が進んだそうだ。
「タブレット端末でのデータ取りも、子どもたちは楽しみにしているんですよ。もちろんタブレットに触れるのはその時だけですが、『今日はゲームできる日!』のように認識されています。令和2年度から小学校でプログラミング教育が必修化されましたし、一人一台タブレットも実施されたこともあり、子どもたちにとっても身近な遊びの一つとなっています」(楢﨑氏)