特許庁と工業所有権情報・研修館(INPIT、東京都千代田区)は1月27日、「グローバル知財戦略フォーラム2023」(図1)を東京都千代田区で開催し、経営戦略に連携した知財戦略の構築の仕方などを議論する講演を並べて、日本での知財戦略を立案する議論を深めた。
このフォーラムの中では、パネルディスカッション「世界に羽ばたくスタートアップ! 成長に伴う知財戦略の軌跡」が開催され、最近話題を集めているベンチャー企業のSpiber(山形県鶴岡市)の関山和秀 取締役兼代表執行役をはじめとする3人の新進気鋭の経営者が自社の成長過程での特許などの知的財産戦略などを披露した(注)。
注:同セッションには、関山取締役兼代表執行役と共に、サイフューズ(東京都港区)の三條真弘取締役CFO(最高財務責任者)とマイクロ波化学(大阪府吹田市)の吉野巌代表取締役の2人のベンチャー企業経営陣も登壇し、この3人の経営者は創業時から苦心して築いた知財戦略などを披露した
その中でも、Web会議によって参加したSpiberの関山氏は示唆に富んだ知的財産戦略に基づく経営戦略を語った。同社は現在、米国アイオワ州クリントン市にある穀物メジャーのアーチャー・ダニエルズ・ミッドランド(Archer Daniels Midland:ADM)の工場内に、Spiberの生産工場を設立し始めて話題を集めている。
Spiber は“クモの糸”を実現するというキャッチフレーズの下に、微生物発酵(ブリューイング)プロテイン(タンパク質)系の糸をつくって繊維・布などの事業化を目指して起業し、その糸をつくる工場をつくって話題を集めている。
慶應義塾大学が鶴岡市に設置した先端生命科学研究所(IAB)で博士課程の学生として研究していた関山氏は、構造タンパク質素材を人工的に合成・生産して繊維をつくると、「地球の自然本来のリサイクルできる繊維素材になるため、地球環境に合った糸素材を実用化できると考えて、2007年9月26日に起業した」と語る。
現在は、このプロテイン(タンパク質)系の糸から布地をつくり、衣服などに加工し、販売し始めている(この繊維を、アパレル系企業が布製品・洋服などに加工している)。そして2018年11月に、このブリューイング・プロテインの生産工程などを持つ工場をタイに設けて、この糸・繊維の量産の基盤を築いた経緯などを説明した。同社がWebサイトに公表しているタイの工場施設を図3に示す。
関山氏は「このブリューイング・プロテインの糸・繊維によって、人類は初めてリサイクル可能な地球環境を維持できる繊維をやっと手に入れた」と、事業内容の革新的な意味合いを説明した。
Spiberは、こうした設備投資・工場建設などを実行する資金を得るために、「当社は投資会社のカーライルを中心とする世界有数の投資家や政府系の海外需要開拓支援機構(クールジャパン機構、東京都港区)などの国内投資家を割当先とする第三者割当増資を実施し、総額244億円の資金調達をした。さらに、三菱UFJモルガン・スタンレー証券による事業価値証券化(Value Securitization)と呼ばれる資金調達手法によって100億円の資金調達も実施し、合計344億円を獲得した。この資金を基に着実に事業推進を進めている」と、関山氏は説明する。
工場を設けるのに必要な資金を得るためには、同社の独特な開発技術を熱心に広報し、これを資金調達の有効手段にしている点に、この講演を聞いている聴講者たちはかなり感心した模様だった。