CES 2023で発表されたNanosys社とEyesafe社による「Eyesafe QD」は、LCD(液晶ディスプレイ)から発せられ、目に悪いと言われているブルーライトの低減を狙った新たな技術である。これまでOLED(有機EL)は、目に悪い短波長のブルーライトがLCDよりも少ないといううたい文句でLCDとの差異化を図ろうとしてきたが、今回のEyesafe QDでその優位性も揺らいでいる。
Eyesafe社は、目の健康に影響を及ぼすとされているブルーライト光を緩和する同社独自の技術「Eyesafe DTX拡散シート」も提供しながら、ブルーライトに対する規格を提案し標準化を目指す米国企業である。DTX(Display Technology Multiplied(X))拡散シートは、ブルーライトを低減させるだけなく、色のパフォーマンスや輝度を維持もしくは向上させるとしている。今回のCESではNanosys社とは別にプライベート展示を行った。
LCDでもブルーライト低減が可能に
Eyesafe社の独自のプライベート展示室では、Nanosys社との開発によるEyesafe QDの展示と、同社が提唱するブルーライトの評価基準のデモ展示を行った。LCDのブルーライト低減手法としては、これまでソフトウェハによる制御で対応し一定の効果が得られているが、今回の「Eyesafe QD」では、ブルーライト低減と共に輝度および色域の向上も可能になった(図1)。
ブルーライトに対する安全性規格となるRPF
図1に掲載した仕様表にはRPF(Radiance Protection Factor)という数値が記載されている。このRPFは、特定の輝度レベル(200nits)でディスプレイからの青色光の放出を測定しCIE標準光源D65と比較して評価する手法である。RPF>35であれば安全だとしている(Eyesafe社HP参照)。Eyesafe社は、この様な安全性に対する規格を業界標準とすることを目指して活動している。
図1のソフトウェアによるブルーライト低減では、この基準値をぎりぎりクリアしているが、「Eyesafe QD」であれば大きく越える事が可能だとしている。さらに、以下に記載するEyesafe社独自の技術でも、十分なブルーライト低減効果が得られるとしている。
Eyesafe社独自のブルーライト低減技術
今回発表した「Eyesafe QD」とは別に、Eyesafe社は独自のブルーライト低減用のシート「Eyesafe DTX」を開発し、すでにLCDモニターに搭載されている(図2および図3)。このEyesafe DTXは、Eyesafe QDと同様にバックライトとLCDパネルの間に入れる拡散シートである。人間の目に影響があると懸念されるブルーライトの波長域をフィルタリングし、それをリサイクルしてGreenとRedのピークを向上させる機能を持つ。QDは使っていない。
ブルーライト低減でまた一歩OLEDの優位性を摘んだLCD
元々、ブルーライト問題はOLEDがLCDに対して優位性を示すために持ち出された経緯がある。今回、LCDに対して、Eyesafe独自のEyesafe DTX技術およびNanosysと開発したEyesafe QDが出たことで、ブルーライトでの競争は引き分けに終わりそうな感がある。
これまで、ディスプレイ技術の競争では、それぞれの技術の優位性を打ち出したアピールと市場開拓を行ってきた。ブルーライト問題に対するOLEDの優位性は、OLED陣営のひとつの切り札であったが、LCDでもブルーライト問題への対応が可能になったことで、OLED陣営は次の一手を迫られることになった。