名古屋大学(名大)、浜松医科大学、Almaprismの3者は1月27日、注意欠如多動症(ADHD)患者の実行機能改善を目指したビデオゲームを開発するプロジェクトを開始。同プロジェクトが、日本医療研究開発機構(AMED)の2022(令和4)年度「医療機器等研究成果展開事業」に採択され、AMEDと契約を締結したことを発表した。
同成果は、名大医学部附属病院 親と子どもの心療科の高橋長秀准教授、浜松医科大 子どものこころの発達研究センターの土屋賢治特任教授、Almaprismの糟野新一CEOらの共同研究チームによるもの。
ADHDは、小児の5%、成人の2.5%に見られる最も頻度の高い神経発達症(発達障害)だ。しかし、診断基準を満たしていなくても、患者は生涯にわたって社会生活上の困難を抱えているという。また、ADHDの発症には遺伝的要因と環境が組み合わさっていると考えられ、年々有病率が上昇していることが知られている。ADHDを有すると、小児であれば学業不振や対人関係トラブルが起こり、不登校やうつ病になることもあり、教育現場では教師に対する過度な負担が生じている可能性が指摘されている。
ADHDの症状は、多動衝動性(じっとしていることが苦手、待つことができないなど)や、不注意(集中力が持続しない、ミスや忘れ物が多いなど)を特徴とする。そんな中で同プロジェクトでは、まずADHDの症状の中で薬物療法の効果が期待しづらいものに焦点を絞り、ゲームをプレイしたデータからそのような能力を正しく測定できているかどうかを確認するという。
そして次に、継続してゲームをプレイすることでその能力が改善していること、およびADHD症状が改善していることの確認を行い、開発したゲームを医療機器として申請することを目指すとしている。
研究チームによると、今回の研究では、段取りの能力やうまくいかなかった時に別の方法を考えるような能力を伸ばすことで、結果としてADHD患者の子どもの日常生活や学業における困りごとを減らすことができ、生活の質が向上するものと考えているという。
なお米国では2020年に、ADHD患者の注意力障害をターゲットとしたビデオゲームが開発され、すでに承認されている。日本でも臨床試験が開始されているものの、こちらは注意力という単一の認知機能を対象としており、日常生活への効果は限定的であることが考えられるとする。
研究チームは今回のプロジェクトについて、名大医学部附属病院での倫理審査を経て、名大医学部附属病院および浜松医科大での実施許可のもと、2023年中に臨床試験を開始する予定とした。さらに、ゲームのプレイデータの解析を行い、症状と関連する能力が正しく測定できていることの確認を行い、2024年以降は継続してゲームをプレイすることで能力が改善すること、およびADHD症状が改善することを確認するための臨床試験を行う計画だとする。そして最終的に、2025年以降に医療機器としての申請・承認を目指すとしている。なお、ゲーム依存にならないようにも配慮し、1日にプレイできる時間やステージ数に制限を設けるともしている。