国立天文台(NAOJ)は1月27日、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ「Hyper Suprime-Cam」(HSC)を用いて2014年から実施している撮像探査「M81銀河考古学プロジェクト」において、M81銀河群の広域探査により、この銀河群に属する「超淡銀河」から星が流れ出ていることを示す尻尾のように伸びた構造「恒星ストリーム」を発見したことを発表した。

同成果は、英・エジンバラ大学のルーカス・ゼマイティス大学院生、NAOJ ハワイ観測所の岡本桜子助教らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、英国王立天文学会が刊行する天文学術誌「Monthly Notices of the Royal Astronomical Society」に掲載された。

M81銀河群は、おおぐま座の方向に地球からおよそ1200万光年の距離にある渦巻銀河のM81を中心に、大小40個以上の銀河で構成される、地球から最も近い銀河群の1つだ。同銀河群は、我々の天の川銀河が属する「局所銀河群」と似た性質を持つことから、天の川銀河の歴史を調べるための重要な研究対象とされている。

このM81銀河群に属する矮小銀河の1つである「F8D1」は、銀河のサイズに対して含まれる星の数が極めて少ないことから、超淡銀河の1つに数えられている。なぜ超淡銀河のような特徴を有する銀河が存在するのか、今までのところわかっていない。そこで研究チームは今回、F8D1を詳しく調べることにしたという。

まず、M81銀河考古学プロジェクトで撮影された画像の中から、M81銀河群の距離にある赤色巨星だけがピックアップされた。それらの詳しい分析を行った結果、F8D1からM81の方向に1度角以上に渡って伸びている恒星ストリームが発見されたとする。その広がりは約20万光年で、F8D1銀河本体の大きさの30倍以上にも及ぶという。また、この恒星ストリームの明るさは、F8D1本体から3分1以上もの星々が流れ出たことを示しているという。研究チームは、F8D1がこのような特徴を有するに至った理由として、同銀河が巨大なM81の近くを通過した際に、強い潮汐力を受けたことが原因と推測されるとした。

  • (左)すばる望遠鏡HSCによるM81銀河群の観測領域(点線と赤線で囲まれた範囲、背景はスローン・デジタル・スカイ・サーベイの観測画像)。(右)赤線で囲まれた超淡銀河「F8D1」を含む領域における赤色巨星の分布。右上挿図は、F8D1本体のHSCによる観測画像

    (左)すばる望遠鏡HSCによるM81銀河群の観測領域(点線と赤線で囲まれた範囲、背景はスローン・デジタル・スカイ・サーベイの観測画像)。(右)赤線で囲まれた超淡銀河「F8D1」を含む領域における赤色巨星の分布。右上挿図は、F8D1本体のHSCによる観測画像(出所:NAOJ Webサイト)

今回発見されたF8D1から伸びる巨大な恒星ストリームは、過去数十億年の間に起こった銀河間の重力相互作用によって、銀河の性質が大きく変わってしまった一例であるという。超淡銀河は生まれながらなのか、あるいは成長過程においてこのような姿になったのかという疑問に対し、F8D1は後者にあたることが今回の研究で初めて明確に示されたとする。

天の川銀河やアンドロメダ銀河、M81などの大型銀河は、誕生当初から大型だったわけではなく、周囲の矮小銀河を次々と飲み込んで大きく成長してきたと考えられている。岡本氏は、F8D1から多くの星々が流れ出ている様子は、M81が成長しているまさにその瞬間を捉えたものといえるとする。

なお、F8D1は探査領域のちょうど端に位置しているため、一般的に銀河を中心にして対称に現れる潮汐尾構造の片方しか確認されていない。研究チームは今後も、F8D1の南西側がどのようになっているのかを調べるため、HSCでの観測を続ける予定とした。さらに、今後すばる望遠鏡において稼動する予定の「超広視野多天体分光器」(PFS)などによる追観測でその運動情報を調べることで、超淡銀河の力学質量や、M81銀河群の進化史に迫ることができるとしている。