高エネルギー加速器研究機構(KEK)、東北大学、日本原子力研究開発機構(原子力機構、JAEA)、J-PARCセンター、理化学研究所(理研)、大阪大学(阪大)の6者は1月26日、ストレンジ(S)クォークを含む中間子(メソン)のうちで最も軽い粒子である「K中間子」と陽子から、「Λ(ラムダ)ハイペロン」のうちで第一励起状態にある「Λ(1405)」を直接合成し、その「複素質量」の直接測定に成功したことを発表した。

同成果は、阪大 核物理研究センターの井上謙太郎特任研究員、同・川崎新吾特任研究員、理研 仁科加速器科学研究センターの佐久間史典専任研究員(理研 開拓研究本部 専任研究員兼任)、原子力機構 先端基礎研究センターの橋本直研究副主幹、東北大 電子光理学研究センターの大西宏明教授らが参加し、阪大 核物理研究センターの野海博之教授(KEK 素粒子原子核研究所 特別教授兼任)が実験代表者を務める国際共同利用実験「E31」(9か国20機関30部局76名が参加)によるもの。詳細は、素粒子物理や原子核物理などを扱う学術誌「Physics Letters B」に掲載された。

誕生直後の宇宙は想像を絶する高温状態にあり、クォークですらバラバラになって飛び回っていたと考えられている。現在は宇宙膨張によって十分に冷えたため、自然界に存在する4つの力のうちの1つである「強い相互作用」によって、クォークは複数個が強く結びつけられ、陽子や中性子などの核子や、中間子といった複合粒子に閉じ込められている(通常、クォークは単独で存在できないとされる)。

クォークで構成される複合粒子はハドロンと総称され、さらに、核子などのように3個からなるものは「バリオン」、中間子のようにクォークと反クォーク1個ずつからなるものは「メソン」と大別される。クォークからどのようにハドロンが形成されたのかは、宇宙における物質の形成と進化に関する研究において重要な問題となっている。

Sクォークを含むバリオンであるハイペロンのうちで最も軽いものがΛハイペロンであり、その第一励起状態にあるのがΛ(1405)である。同粒子は、すぐにπ中間子と、Λハイペロンの次に軽い「Σ(シグマ)ハイペロン」へと崩壊してしまう、不安定な共鳴状態にある。

Λ(1405)については、3個のクォークからなるバリオンの単純な内部運動による励起とする説がある一方で、K中間子と核子が結合した状態とする説も強かった。後者が真実なら、Λ(1405)は、これまでのハドロンの分類には当てはまらない5個のクォーク(4個のクォークと1個の反クォーク)で構成されていることになる。

そこで、K中間子と核子を融合させ、直接Λ(1405)を合成することが検討されてきたが、Λ(1405)は、K中間子と核子の質量和よりも軽いため、K中間子と核子をどれほどゆっくりと衝突させても、Λ(1405)を合成する反応は起こせないとされてきたという。