新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、は担当している“ムーンショット型研究開発事業 目標4”の2022年度成果報告会を1月17日と18日の2日間にわたって、東京都中央区内で開催し「2050年までに地球環境再生に向けた持続資源循環可能な技術開発」についての各研究開発チームの成果報告が多数発表された(図1)。
今回の報告では目標4の技術開発テーマ「生分解のタイミングやスピードをコントロールする海洋生分解プラスチックの開発」の成果報告が3件、「窒化物を回収、資源転換、無害化する技術の開発」が3件、それぞれ発表され、その技術開発成果について、専門家の研究開発者同士が議論を重ねた。
この報告会の中で今回、注目を集めたのは、東京大学(東大)大学院工学研究科の脇原徹教授がプロジェクトマネージャー(PM)を務めている「窒素資源循環社会を実現するための希薄反応性窒素の回収・除去技術開発」だった、その脇原教授(図2)に今回発表した研究開発成果内容のポイントをうかがった。
脇原教授がPMとして推進している研究開発テーマは「窒素化合物を回収、資源転換、無害化する技術の開発」を実現する研究開発テーマを構成する1テーマになる。
この「窒素化合物を回収、資源転換、無害化する技術の開発」の中で、別の研究開発テーマを率いている産業技術総合研究所(産総研)の材料・化学領域ナノ材料研究部門の川本徹主席研究員は「地球上の産業活動から発生する希薄な窒素化合物の循環技術の確立が2050年時点での地球環境を保つ上では不可欠になっている」と、研究開発する背景を説明している。
脇原教授に聞いた今回の研究開発成果のポイント
--今回、発表された研究開発目標のポイントは?
脇原教授(以下、敬称略):今回、発表した研究開発テーマの中核は現在、各国の物流などを支えている大型・中型トラックなどの自動車用ディーゼルエンジンなどから発生するNOxを大気中に放出しないように排ガス処理をする基材のゼオライトというセラミックス材料を大幅に改良する見通しを得たことです。
このゼオライトはケイ素(Si)とアルミニウム(Al)、酸素(O)などで構成されているセラミックスで、微細な穴がつながっている多孔質形状になっています。排ガスがこの微細な穴を通過する際に、排ガス内のNOxが処理される仕組みです。
現在のゼオライトは容易に合成できるAl含有量が相対的に多い焼結体をまずつくり、その後でAl原子を除去する方法が、現在は施されています。実際には、小細孔のゼオライトになると、イオン半径の大きなAl原子は除去しにくく、その除去には限界がありました。現在はSiとAlの組成比率が3.6程度のものが多いのです。
--今回はどのような組成改善を実現したのでしょうか?
脇原:組成改善法の詳細はまだ未公開ですが、そのポイントはゼオライトの穴が続いている構造に、有機物が入っている状態ならば、Alを除去できる技術を開発し、さらに我々の研究室が有していた「欠陥修復処理技術」も施しています。現時点では、SiとAlの比率(Si/Al)が3.6程度なのですが、これを9.1まで向上させ、触媒性能を改善する能力を高めることができました。この際にゼオライトの結晶性を保ったままで、脱Alを実現しています。
--今回の研究開発テーマに参加している企業などは?
脇原:三菱ケミカル、産総研、JFCC(財団法人セラミックスセンター)の3者です。東大と併せて4者で、当該の研究開発を進めています(図3)。
東大が材料開発、その利用のためのシステム開発、LCA(ライフサイクルアセスメント)評価を担当しています。産総研とJFCCは構造解析と性能評価法などの開発を、三菱ケミカルは量産を目指すためのスケールアップ手法と、将来のゼオライトの事業化計画(生産と販売)を担当しています。
東大を中核として、研究開発時点の萌芽技術を事業化に向けたコア技術に育てる計画です。そして、希薄反応性窒素の回収・除去技術開発を確立し、事業化につなげて地球環境を改善します。
注:内閣府傘下の総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)は、2020年に日本発の破壊的イノベーションの創出を目指して、挑戦的な研究開発を実現する“ムーンショット”を推進するために「ムーンショット型研究開発制度」を創設した。その後も、「ムーンショット型研究開発」目標を増やし、現在は9つの研究開発事業が進められている。その中で、ムーンショット目標4は、経済産業省が策定した研究開発構想を基に、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)がムーンショット型研究開発事業として実施している