日本IBMは1月24日、企業のサプライチェーンに関する意識調査レポート「CSCO(Chief Supply Chain officer:最高サプライチェーン責任者) Study」を発表し、オンラインで記者説明会を開催した。
今回、IBMのビジネス・シンクタンクであるIBM Institute for Business Value(IBV)が、日本を含む世界35カ国超・24業界におよぶ1500人のCSCOとCOO(Chief Operating Officer:最高執行責任者)を対象に、サプライチェーンの取り組みの重点や成果に関する調査を実施。
CSCOの戦略的役割が高まる
調査では、新型コロナウイルスの世界的流行、インフレ、気候変動、地政学的事象がもたらすサプライチェーンの課題に、世界および日本のCSCOがどのように対処しているか、またサプライチェーンの将来性をどのように確保しようとしているかを明らかにした。
また、多くのCSCOは自動化、AIとインテリジェントワークフロー、エコシステム、サステナビリティへの投資を拡大し、サプライチェーンの再構築を進めている。過去2年間におけるサプライチェーンの問題は世界と日本共通で需要変動への対応や物流手段、在庫充足で混乱が目立ち、日本では生産の混乱も顕著になったという。
日本IBM IBMコンサルティング事業本部 ビジネス・トランスフォーメーション・サービス ファイナンス・サプライチェーン改革サービス SCM・サステナビリティー担当 シニア・パートナーの鈴村敏央氏は「マクロ経済とサステナビリティの重みが増し、サプライチェーンが重要経営課題になっており、CSCOの戦略的役割が高まっている。また、AIと自動化技術の導入など、エコシステムとの相互接続性強化によるサステナブルな業務運営、予測可能性を強化している。さらに、競争優位を獲得するためにデータドリブンな統合、自動化されたワークフローが必要になっている」との認識を示した。
外部要因として、マクロ経済要因(世界52%、日本51%)とサステナビリティ(世界48%、日本47%)を挙げる割合が大きく増加し、世界のCSCOの48%が、通常のサプライチェーン管理だけでなく、「サプライチェーンの変革」が最重要の職責になると認識していると回答。
エコシステムとの相互接続性
さらに、世界のCSCOの47%が過去2年間に新しい自動化技術を導入したと回答し、予測可能で柔軟かつインテリジェントなサプライチェーン業務を実現し、AIを活用した品質の監視とパフォーマンスの追跡も可能にしている。CSCOの半数以上(世界53%、日本56%)が、透明性と可視性の向上を期待する分野として「信頼できるセキュアなエコシステムとネットワークのデジタル接続」と回答している。
今後2~3年間における最大の課題として、サプライチェーンの混乱とテクノロジーインフラストラクチャに次いで、サステナビリティが世界で第3位となっている。
今後3年間のサプライチェーンDX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組みとして、世界では52%、日本では57%がサステナビリティを最優先と認識しており、世界のCSCOの50%、日本のCSCOの59%が「サステナビリティへの投資によってビジネスの成長が加速する」と回答。
サステナビリティの透明性を求めているのは、特に投資家(世界56%、日本56%)と役員(世界50%、日本52%)が多く、世界では顧客を挙げた割合も50%と高いが、日本では39%にとどまった。
データドリブンなワークフロー
一方、世界のCSCOの20%(日本のCSCOの13%)のイノベーター企業(サプライチェーンの自動化に関して、投資対象は主に「トランスフォーメーション(データ主導のイノベーションの推進)」と回答した企業)は、不安定な将来に備えてデータドリブンなイノベーションを加速していくと回答。
これらのイノベーター企業は、自動化されたワークフローを組織全体およびパートナーと統合することでリアルタイムの可視化、洞察、行動を実現し、56%は現在ハイブリッドクラウドで運用、60%はデジタルインフラストラクチャーに投資して拡張するとともに価値を提供しているという。
サステナビリティの取り組みを拡大するとともに新しい製品やサービスを生み出し、58%は取り組みを通じて顧客エンゲージメントを向上させる機会があると考え、サイバーセキュリティにも注力している。
日本企業への提言
日本IBM IBMコンサルティング事業本部 ビジネス・トランスフォーメーション・サービス ファイナンス・サプライチェーン改革サービス サプライチェーン・マネジメント担当 パートナーの志田光洋氏は「イノベーター企業はワークフローの自動化・統合化を自社およびエコシステム全体に広げているものの、日本企業の取り組みは遅れている。世界に追随するためには日本企業もDXを従来以上に加速させる必要がある」と指摘。
多くの日本企業は実務ベースでは、パートナーと協業してサプライチェーンの混乱に対応しているものの、DXの観点では個別のサプライチェーン機能の変革を進めている段階だという。
こうした状況に対し、サステナブルなサプライチェーンマネジメントに向けて同社ではデータドリブンなワークフローを実現する「Supply Chain Intelligence Suite Control Tower」を提供している。志田氏は「これにより、ダッシュボード機能に加え、可視化、予測分析、最適化の一連のワークフロー、AIの活用による意思決定支援までをカバーできる」と説く。
ただ、各社による優先して取り組むべき課題は異なることから、サプライチェーン単独ではなく、企業全体・企業間の変革が求められるという。同氏は「改めてサプライチェーンのDXで求められることは、組織・企業横断でデジタルとフィジカル間の情報の価値転換・付加価値を創出すること、そしてサプライチェーン全体をデジタル上で共有して意思決定をしていくことだ」と力を込める。
そのためのロードマップとしては、SoR(System of Record)の構築からスタートし、データの利活用に必要な鮮度・精度の高いデータを入手し、その後は可視化・状況認識を進めてアナリティクスを活用することで、意思決定そのものを自動化するディシジョンサイエンスの世界を目指すというものだ。
鈴村氏は「今後のサプライチェーンDXにおける焦点は世界、日本共にサステナビリティやインテリジェントワークフロー、エコシステムパートナーと協働するアジリティを重視し、日本においては顧客接点としてのワンマイルも重視している」と説明した。
また、志田氏は「サプライチェーンのDXは、サステナビリティの取り組みを強化する社会価値、顧客を中心とした顧客価値、日本企業の現場力の強さを活かす従業員価値を求めて取り組むべきだ」と最後に締めくくった。