北海道大学(北大)は1月20日、生体軟物質であるイカの外套膜に合成高分子を複合化することで、外套膜の筋肉が持つ異方的構造を反映した力学特性による高い耐破壊性を持った複合ゲルを開発することに成功したと発表した。
同成果は、北大大学院 生命科学院の大村将大学院生、同・大学院 先端生命科学研究院・同創成研究機構 化学反応創成研究拠点の中島祐准教授、同・グンチェンピン教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の材料科学全般を扱うオープンアクセスジャーナル「NPG Asia Materials」に掲載された。
長いひも状の高分子による網目構造内に多量の水を閉じ込めたハイドロゲルは、生物の身体に良く似た特徴を持つ。そのため、生体に馴染みやすい次世代医療材料として、軟骨や腱などの代替え用途が検討されている。しかし、ゲルは一般に強度や耐破壊性が低い材料であり、それが実応用に際しての大きな障壁となっていた。
材料を壊れにくくする一般的な手法の1つに、鉄筋コンクリートに代表される、複合構造および異方性の導入がある。要は、ゲルにも複合構造と異方性を導入できれば、丈夫さが得られる可能性があるということとなるわけだが、化学合成によって得られる一般的なゲルは異方性を持たないことから、ゲルを何らかの異方的な柔軟材料と複合化させる必要があった。
そこで研究チームは今回、天然のハイドロゲルともいえる生体軟組織を、合成高分子と複合化することにしたとする。多くの生体軟組織は、筋肉などのように、高次な生命活動を行うために異方性を有している。このような異方的柔軟材料である生体軟組織を合成ゲルと複合させることで、極めて丈夫な複合ゲルが得られることが期待できるという。
今回の研究では、生体軟組織として「ムラサキイカ」の外套膜が選択された。外套膜はイカの表面を覆う円錐状の組織であり、焼きイカなどを食べたときに感じる、リング状の繊維質の部位として知られている。
今回の研究では、外套膜の切り身を高分子の原料である親水性モノマーの水溶液に浸漬させ、モノマーを十分に染み込ませた後に外套膜を加熱。それにより、外套膜内部でモノマーから高分子網目が合成され、複合ゲルが作られた。