新型コロナウイルスワクチンの効果は加齢とともに下がるとされる。こうした傾向について京都大学iPS細胞研究所(CiRA)の研究グループが、高齢者は働き盛りの成人と比べてワクチン接種後の免疫細胞「ヘルパーT細胞」の応答(反応)の立ち上がりが遅く、収束も早いことなどを突き止めた。高齢者特有のこうした反応には、ある特定のタンパク質が高いレベルで発現することが関係しているという。重症化率や致死率が高い高齢者に対する効果的なワクチン接種方法の検討に役立つ可能性がありそうだ。

加齢とともに免疫力は下がり、高齢者は新型コロナウイルスに感染すると重症化しやすい。免疫の仕組みを応用するワクチンによってできる抗体量(抗体価)も低いことが分かっているが、詳しいことは解明されていない。

CiRA未来生命科学開拓部門の城憲秀助教、濵﨑洋子教授と京都大学医学部附属病院の研究者らは、基礎疾患がなく、かつ感染歴のないワクチン接種者200人以上の協力を得てこの謎の解明に挑戦した。

城助教らは、米製薬大手ファイザーのワクチンを2回接種した65~81歳の高齢者109人(男性56人、女性53人)と23~63歳の成人107人(男性43人、女性64人)を対象に接種前、1回目接種から約2週間後、2回目接種から約2週間後、1回目接種から約3カ月後にそれぞれ血液を採取。抗体価など免疫反応を解析した。

その結果、高齢者も成人も2回接種後に抗体価は大幅に増えた。双方とも個人差は大きく、平均で見ると高齢者の抗体価の中央値は成人と比べて40%程度低かった。

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    ワクチン接種前後の成人、高齢者それぞれの血中抗体量の変化(京都大学/京都大学CiRAの研究グループ提供)

研究グループは次に、免疫の司令塔となるヘルパーT細胞に着目した。この細胞がやはり免疫細胞であるB細胞に指令を出すとB細胞が抗体を作る。またヘルパーT細胞のきょうだいのようなキラーT細胞に指令を出すと、キラーT細胞が新型コロナウイルスに感染した細胞を殺す。このようにヘルパーT細胞は免疫細胞の中でも重要な働きをする。

同グループは、ワクチンに反応するヘルパーT細胞の割合を調べた。すると、成人の割合は1回目のワクチンで増え、2回目ではやや下がるもののほぼ同程度を維持し、3カ月後に減少した。これに対し高齢者の割合は、1回目接種後は成人より低く、2回目で成人とほぼ同程度になるものの、3カ月後には再び成人より低くなった。

これらの解析からワクチンに反応するヘルパーT細胞の反応は、高齢者では立ち上がりが遅く、収束も早い傾向が判明。さらに反応の立ち上がりが遅い人は抗体価やキラーT細胞の活性化の程度も低いことが分かったという。

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    ワクチン接種後に反応するヘルパーT細胞の割合(応答性)に関する成人と高齢者の違い(京都大学/京都大学CiRAの研究グループ提供)

城助教や濵﨑教授らはさらに、高齢者のヘルパーT細胞反応が弱い傾向にある原因を確かめるために、過剰な免疫反応を抑える働きがあるタンパク質「PD1」に注目。PD1の発現量の変化を調べた。

その結果、PD1の発現量のレベルは成人、高齢者とも2回目接種後にピークを迎えるが、高齢者は成人よりもさらに高く、発現量レベルが高い高齢者はワクチンによって誘導されるキラーT細胞も少なくなる傾向にあることが分かった。

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    ワクチン接種後のPD1発現量の変化。高齢者は接種2回目後に目立って高い(京都大学/京都大学CiRAの研究グループ提供)

これらの結果から研究グループは、高齢者は成人と比べて全般的に免疫反応にブレーキがかかりやすくなっているとみている。このほか、一連の解析から年齢に関わらずヘルパーT細胞反応の立ち上がりが遅い人は、抗体価やキラーT細胞の活性化、副反応の頻度のいずれも低いことなど、興味深い知見が得られたという。

城助教ら研究グループは、ワクチン効果を向上させるためには初回接種によるヘルパーT細胞の反応を高め、特定の細胞の働きを制御するタンパク質(サイトカイン)を十分に産生させることが重要と指摘。その上で今回の成果は高齢者、若年者それぞれの免疫特性に適した接種スケジュールの立案や、免疫機能が低い人に対しても効果が高いワクチン開発に役立つ可能性がある、としている。

研究成果をまとめた論文は1月12日付国際科学誌ネイチャーエイジングに掲載された。

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    2021年7月以降の東京都の入院患者の年代別割合。オミクロン株が国内感染の主流を占めた昨年以降高齢者の割合が急増した(東京都提供)

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