米国のベンチャー企業「ABLスペース・システムズ」は2023年1月11日、新開発の小型ロケット「RS1」の初打ち上げに挑んだが、失敗に終わった。
原因は調査中だが、第1段エンジン部で火災が発生した可能性があるという。
同社は「これまでと同じスピード感で、2号機の打ち上げに臨む」と意欲を見せる。
ABLスペース・システムズ
ABLスペース・システムズ(ABL Space Systems)は2017年創業の宇宙ベンチャーで、スペースXの元技術者やモルガン・スタンレーの元従業員などが中心となって立ち上げた。米国カリフォルニア州に拠点を構え、主に小型衛星打ち上げ用の小型ロケットの開発を行っている。
同社が開発している「RS1」ロケットは、全長27m、直径1.8mの2段式で、両段とも推進剤にはケロシンと液体酸素を使用する。打ち上げ能力は地球低軌道に最大1350kg、高度500kmの太陽同期軌道に970kgで、日本のイプシロン・ロケットに近い性能をもっている。
RS1の最大の特徴は、シンプルということにある。たとえば機体もエンジンもシンプルな設計や仕組みを採用しており、低コスト化、製造期間の短縮、信頼性の向上などを図っている。また、1段目には「E2」というエンジンを9基、2段目にはE2を真空用に改造したものを1基装備しており、両段に使うエンジンを基本的に同じにすることでも低コスト化などを図っている。
さらに、ロケットの各段は、標準の輸送用コンテナに収まるサイズになっており、空路や陸路、海路で簡単に輸送することができる。発射設備も可搬式で、平らなコンクリートがあればどこでも発射場にできるとしている。くわえて、E2エンジンの燃料にはジェット燃料(Jet-A)も使うことができるため、世界中の飛行場から発射できるという。同社ではこうした地上設備を「GS0」と名付け、複数基を製造したうえで世界各地への展開を狙っており、アラスカ州の宇宙港のほか、カリフォルニア州のバンデンバーグ宇宙軍基地、バージニア州のワロップス島、英国シェットランド諸島のアンスト島に建設中の宇宙港などからの打ち上げが計画されている。
こうした特徴により、RS1は従来のロケットよりも高信頼性、柔軟性、低コストを実現することを目指しており、1回の打ち上げあたりのコストは約1200万ドルとされる。
同社には、米国の大手航空宇宙メーカーであるロッキード・マーティンが多額の投資をしており、またRS1による打ち上げも発注。2029年までに最大58回のRS1の打ち上げ契約を交わしている。
RS1初の打ち上げ
そしてABLは1月11日、RS1の初の打ち上げに臨んだ。
RS1は日本時間11日8時27分(現地時間10日14時27分)、アラスカ州にある太平洋宇宙港施設・アラスカ(Pacific Spaceport Complex - Alaska)から離昇。1段目にある9基のE2エンジンはすべて所定の推力を発揮し、ロケットは力強く上昇を始めた。
しかし、離昇から10.87秒後、高度約232mに到達したところで、1段目エンジンがすべて停止するという事態が発生。ロケットはそのまま慣性で2.63秒間上昇したのち、落下を始め、発射台から東に約18m離れた場所に墜落した。
墜落した時点で、ロケットには推進剤がまだ約95%も残っていたことから、地面への激突とともに爆発が起き、GS0をはじめ、周囲の施設設備は大きな損傷を受けたという。ただし、けが人などは出ていない。
ロケットには米国の民間企業ヴァリサット(VariSat)の超小型衛星2機が搭載されていたが、ロケットとともに失われた。計画では、RS1はこれらの衛星を高度250×360km、軌道傾斜角を87.3°の極軌道に投入することになっていた。
打ち上げの失敗が確認された直後、ABLはTwitterを通じて「私たちが望んでいた結果ではありませんでしたが、覚悟はしていました」とコメントした。
「発射施設は損傷しましたが、火災は収まり、すべての人員は無事です。調査が完了したら、打ち上げ再開に向けて計画を立てます」。
現時点までの調査で、離昇から数秒後に、1段目のエンジン・ベイ内で圧力の急激な上昇と温度の上昇が起きたことがわかっているという。また、打ち上げ時の映像からは、飛行中のロケットのエンジン・ベイ付近から炎や煙が出ていることも確認できたとしている。さらに、エンジンが停止する直前には、いくつかのセンサーが相次いで使用不能になったという。
こうしたことから、なんらかの原因によってエンジン・ベイ付近で火災が発生し、それがアビオニクス(電子機器)を破壊し、ロケットのシステム全体の故障を引き起こした可能性があるとしている。
同社では今後、火災が起きた原因などを調査し、2号機以降に反映するとともに、墜落によって損傷した地上の施設設備の補修も進め、次の打ち上げに備えるという。
なお、RS1の2号機(SN02)については、使用するすべてのエンジンは2022年中に領収試験を終えており、機体の組み立ても終え、全機試験を行うための準備段階にあるという。また、GS0の2基目(SN02)もほぼ完成し、試運転を行っている段階だとしている。
ABLは19日に出した声明で、「私たちは、RS1プログラムの特徴である目的、効率、そしてスピード感を維持しつつ、2号機の打ち上げに臨む準備を進めています。意欲は十分です」と、力強く述べている。
参考文献
・ABL(@ablspacesystems)さん / Twitter
・RS1 - ABL Space Systems
・ABL Payload Users Guide 2022 V1