NECは1月20日、同社子会社であるNECプラットフォームズへの量子コンピューティング技術を活用した生産計画立案システムの本格導入に関する記者説明会をオンラインで開催した。

NECプラットフォームズの福島事業所(福島県福島市)、白石・米沢事業所(宮城県白石市)、大月事業所(山梨県大月市)、掛川事業所(静岡県掛川市)における、電子部品をプリント基板に実装するSMT(Surface Mount Technology、表面実装)工程において、2023年3月より生産計画立案システムを本格導入する予定だ。

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約30品種の製造ラインの「段取り」工数を50%削減

NECプラットフォームズでは、1つのSMTラインで1日に約30品種の製品を生産しており、生産品種を変更する際には数百種の部品や製造条件の設定を変更する「段取り」を行っている。

段取りはラインを停止して行うため、生産性の維持には効率的な順番での生産による、段取り時間の短縮と設備稼働率の向上が求められる。

だが、SMTラインでの生産順の検討では、ライン同士の段取り時間の重なりの最小化などさまざまな要件を考慮する必要がある。各要件の組み合わせは膨大なため、生産計画立案には時間がかかり、計画立案業務に対応できる人材が限られる点が課題だった。

  • NECプラットフォームズのSMTラインにおける「段取り」のイメージ

    NECプラットフォームズのSMTラインにおける「段取り」のイメージ

そこで、量子コンピューティング技術により大規模な組み合わせ問題の超高速処理が可能な「NEC Vector Annealingサービス」を活用して、2019年よりNECとともに実証実験を実施。実験の結果、熟練の作業者と同等以上の生産計画を数秒で立案できることが確認できたため、生産計画立案システム導入に至った。

SMTラインにおけるシステムの試験利用では、日々変動する生産条件を基に4×10の30乗通りの組み合わせに対して、量子コンピューティング技術で最適化を行うことで段取りの工数が50%削減された。このほか、生産設備の稼働率が15%向上し、毎日1~2時間かけて実施する生産計画立案の工数も90%削減される効果が確認できたという。

  • 量子コンピューティン技術による生産計画の改善効果

    量子コンピューティン技術による生産計画の改善効果

2024年度には中堅企業が導入しやすいパッケージ製品を展開

今回の生産計画立案システムの構築について、NECプラットフォームズ 生産技術本部 マネージャーの重岡雅代氏は、「複雑な制約条件を量子アニーリングで解かせるために、熟練の計画立案者の考え方やプロセスを明文化し、生産現場として譲れない条件などを擦り合わせながら、NECの技術者と現場で役立つモデルに落とし込んでいった」と振り返った。

  • NECプラットフォームズ 生産技術本部 マネージャー 重岡雅代氏

    NECプラットフォームズ 生産技術本部 マネージャー 重岡雅代氏

例えば、現場の計画立案者は締め切り日が異なる数百品種のオーダーに対して、当日の生産計画(製造順)を立案するが、ある品種の段取り時間短縮を優先し過ぎると別の品種の締め切り日に間に合わなくなる。一方、締め切り日が早い品種から順番に製造していくと段取りにかかる時間が増え、生産ラインの稼働率が下がるなど、さまざまな制約条件があった。

  • SMTラインの生産計画に関わる制約条件

    SMTラインの生産計画に関わる制約条件

現在は複数ライン間での段取り作業者の重複や、治工具などのリソース配分を考慮し、複数ラインでの最適化も実現できている。

「システム化によってベテラン作業者のノウハウを形式知化し、熟練者を作業から解放することが可能となった。また、従来は計画の妥当性が判断できなかったが、定量的に判断ができるようにもなった」と重岡氏は述べた。

NECプラットフォームズは今後、タイ工場のSMTラインにも同システムを展開するほか、生産工程以外の工程にも量子コンピューティング技術を活用し、サプライチェーン全体での生産性改善を図るという。

NECの量子コンピューティング関連の事業を統括する、NEC 量子コンピューティング事業統括部長の泓 宏優(ふち ひろまさ)氏は、「2022年末までに100社以上に対して、実用化を前提とした提案を行ってきた。今回のNECプラットフォームズへのシステム導入経験から、顧客課題の明確化、モデル化、検証など、適用プロセス全般におけるノウハウも蓄積できた」と明かした。

  • NEC 量子コンピューティング事業統括部長 泓宏優氏

    NEC 量子コンピューティング事業統括部長 泓宏優氏

NECは量子コンピューティング技術のサービス化にあたって、大規模な顧客提案においては、NECプラットフォームズでのノウハウを活用して期間・費用などを抑えた提案(数千万~数億円規模見込み)を進める。

このほか、2023年度中には中堅企業が導入しやすいパッケージ製品の検討を進め、2024年度中の展開を目指す。