オランダのマルク・ルッテ首相は1月17日(米国時間)、米国のバイデン大統領と会談し、サプライチェーン(供給網)問題やウクライナ支援などについて協議した。
米政府は2022年10月、先端半導体技術や製造装置、米国籍の人材について、米国企業が中国と取引することを事実上禁止。同盟国にも足並みをそろえるよう要請しており、特に半導体製造装置で高いシェアを持つ日本とオランダには速やかな輸出禁止への同調を求めている。
今回の会談では、この対中半導体輸出規制についても話し合いが行わた模様だが、ホワイトハウスからの発表文書には、「安全なサプライチェーンと重要技術が米国の安全保障と経済に重要であることについて話し合った」とだけ記されており、オランダ側の最終的な合意を取り付ける事はできなかった模様である。
対中半導体輸出規制は、1月13日に開かれた日米首脳会談でも具体的な合意には至らず、継続して協議を続けることになっている。半導体分野における世界最大の市場である中国への輸出制限は、自国の企業の業績にも影響を及ぼす可能性が高いため、日本にしろオランダにしろ簡単には合意できないと見られる。
ロイター通信によると、ルッテ氏は会談後にオランダのテレビ局のインタビューで「今後一歩一歩協力しながら良い結果に到達できると思う。高度な半導体は軍事目的に使用されるべきではない(という点で意見は一致した)」と語る一方で、「輸出管理強化がサプライチェーンの混乱につながらないようにすべきだ」とも述べたという。
オランダのハイテク業界がEUに統一行動を要請
また、オランダのリースュ・スフライネマッハー外国貿易・開発協力相は、従来からオランダの安全や経済的利益を守ることを重視し、米国の対中輸出規制を直ちには受け入れないとしてきた。今年に入ってもその主張を変えず、米国の新たな対中輸出禁止要請への対処についてEUや日本を含む各国とも協議をしていると述べている。その背景には、オランダに本社を構える露光装置大手のASMLの中国向け売上高が全体の15%(2021年)を占める規模で、対中輸出規制が強化されれば、同社の業績に影響を及ぼす可能性が考えられ、そこからオランダの経済そのものに影響が及ぶ懸念があるためだという。
すでにASMLは、米国の圧力により、中国向けにEUV露光装置(SMICおよびSK Hynixの無錫工場向け)の輸出許可がオランダ政府より下りず、機会損失が生じている。ASML以外にもオランダのハイテク企業の多くが中国市場で売り上げを伸ばしているようで、そうした視点からも中国市場を手放したくない背景が見える。
そうしたハイテク企業2200社が加盟する業界団体「FME」は1月17日、EUの欧州委員会(EC)に対し、半導体技術の対中輸出を制限する意向の有無に関して立場を明確にするように求め、オランダだけではなくEUとしての強力な統一行動が必要だと訴えたと複数の欧州メディアが報じている。また、ベルギー首相を含む一部の欧州の政治家からは、半導体政策についてオランダが米国と単独交渉するべきではないとし、この問題をEUとして取り組むべきだと主張している。
日本政府も対中強硬姿勢を強める米国から同調を求められており、一定程度協力する方向で調整が進んでいるといわれているが、中国市場での売上高が大きな装置メーカーが市場を失うことは、そのまま業績悪化を意味するため、日本政府の最終判断を米国のみならずEUやオランダも注目している。