NECは1月19日、2018年から開始した北米・欧州でのスタートアップ企業の立ち上げを支援する「NEC X」の取り組みを説明するオンライン記者説明会を開催した。
米シリコンバレーに拠点を置くNEC Xは、これまで現地のアクセラレーターやEIR(客員企業家)、VC(ベンチャーキャピタル)などの投資家と協業し、3~9カ月の事業開発プログラムをスタートアップに提供することで、eコマース販売者向けレビュー分析サービスや農場向け剪定芽摘み自動化ソリューションなど9件の事業化を支援してきた。
NEC X President & CEOの井原成人氏は、「当初の目標を前倒しして、スタートアップのアイデアにNECの技術を掛け合わせた事業化を実現できた。2023年度中に10件目の達成も視野に入ってきており、これまで実施してきたプログラムの可能性も見えてきた。2025年までに累計20件のスタートアップ支援および事業化を実現したい」と今後の目標を語った。
9件目の事業化はドローンによる捜索・救助支援
説明会では、NEC-Xのスタートアップ支援先の9社目として、ドローンを使った捜索・救助支援ソリューションを提供するFlyhoundの設立が発表された。
同社のソリューションは、ドローンによって行方不明者や災害被災者の携帯端末からのセルラー信号を三角測量して位置を特定し、捜索エリアのデジタル地図上でリアルタイムに表示することで捜索にかかる時間を短縮するものだ。これにより、行方不明者の位置を30分以内に半径50メートルの精度で特定することができるという。
Flyhoundの立ち上げにあたっては、EIRからのビジネスアイデア提案を受けて事業仮説を立てたうえで、公的機関を含む組織などに顧客インタビューを実施。ニーズを明確にした後にプロダクト開発に取り組み、複数の公的機関とともに実証実験を経て事業化に至った。
Flyhound Co-Founder CEOのManny Cerniglia氏は、「公共・通信分野において実績と技術力のあるNECとの協業でシナジーを発揮できた。事業開発プログラムを活用することで、当社のソリューションをさまざまなテクノロジーにアクセスし、技術向上や人材獲得をスピードアップできた」と語った。
Flyhoundは、スタートアップ支援プログラム終了後もNEC Xとの関係を継続し、同社が日本市場に支出する際にはNECと連携して、日本の法制度や法施行機関への連携を進めるという。
事業開発スピードを重視し、シリコンバレーに拠点設立
NEC-Xでは、技術・製品開発と事業開発の2軸で事業開発を進める。具体的には、NECグループ内の技術開発から生まれた技術シードとマッチングする事業アイデアを有する起業家を発掘し、技術シードと事業アイデアがフィットする領域での事業化を試みる。
事業化にあたっては、顧客特定と解決するべき課題を見極める「顧客発見」と、想定顧客と実証実験やサービス・プロダクトの有用性を評価する「顧客実証」の2つの段階を経て、最終的にはスピンアウトやスピンイン、ジョイントベンチャーのいずれかの事業化方式が選択される。
当初のビジネスシナリオと異なるヒントやアイデアが出た場合はシナリオを修正し、ビジネスの芽が無さそうだと判断した場合は早期にプロジェクトを中止する。顧客発見のステージをクリアできるビジネスアイデアは、総プロジェクトの4分の1~3分の1程度だという。
NEC Xではこれまで、創業前や事業構想段階にあるプレシード期の起業家に対して、技術提供や投資家とのアクセラレーションなどを行う「NECアクセラレーター プログラム」を実施してきた。2023年からは既存プログラム名を「Elev X! Ignite」に改め、シード期以降のスタートアップにも同様のプログラムを提供する「Elev X! Boost」を開始した。
井原氏はNEC Xの取り組みについて、「スタートアップのビジネスモデルや技術を社内に取り込むインバンド型の企業が多い中、自らの技術を顧客ニーズと掛け合わせるアウトバウンド型である点はユニークだと考える。また、当社自らが技術の価値検証などに必要な投資を実施し、社外起業家を巻き込む点も特徴だ」と述べた。
NEC X設立の背景には、事業開発のスピード感を高める狙いがあるという。NEC-Xは独自の資本金の下で経営を行っており、技術開発や研究のための投資、コスト改修のための活動に自主性を持って取り組める体制になっている。
NEC コーポレート・エグゼクティブの中島輝行氏は、「NEC-Xのスピード感を最優先しており、そのために米国にローカルな企業を設立した。NECのコーポレート部門とも緊密な連携ができるようにしており、スタートアップの選定や支援プログラムの内容、投資家との交渉などはNEC-Xに一任している」と明かした。