北海道大学(北大)は1月18日、北海道に生息するイワナの稚魚が頻繁にあくびをすることを発見し、稚魚のあくびが、着底行動から遊泳行動への行動変化が起こる直前に集中していることを明らかにしたと発表した。

同成果は、北大大学院 水産科学院の山田寛之大学院生、同・大学院 水産科学研究院の和田哲教授らの研究チームによるもの。詳細は、動物の行動に関する全般を扱う学術誌「Journal of Ethology」に掲載された。

霊長類や海生哺乳類などの内温動物(恒温動物)では、あくびが行動変化に先立って起こることが知られている。また近年の研究から、あくびの持つ生理学的な覚醒作用が確認されており、これは「状態変化仮説」と呼ばれ、動物の行動状態の変化を引き起こすとされる。

一方、魚類を含むさまざまな外温動物(変温動物)においても、あくびに類似した行動様式を示すことが断片的には知られていた。しかし、これらは内温動物のあくびとは異なるものであるかと思い込まれているため、外温動物における状態変化仮説の検証が、定量的な研究として行われたことはこれまでなかったとする。そこで研究チームは今回、イワナの稚魚を用いて状態変化仮説の検証を行うことにしたという。

  • あくびをするイワナの稚魚(現在研究室で飼育されている1歳魚で、実際の研究には0歳魚が用いられた)

    あくびをするイワナの稚魚(現在研究室で飼育されている1歳魚で、実際の研究には0歳魚が用いられた)(出所:北大プレスリリースPDF)

今回の実験では、野外で採集されたイワナの稚魚41個体を対象とし、観察水槽を用いて行動が録画された。そして、録画された10分間の動画をもとに、稚魚のあくびと着底行動、および遊泳行動のデータ化を実施した上で、観察されたすべてのあくびについて、発生から行動変化までの時間が記録された。

研究チームによると、10分間の動画の検証の結果、41個体のうち23個体で計48回のあくびが観察されたという。このうち32回は遊泳時よりも着底行動中に多く観察され、特に着底行動から遊泳行動への行動変化が起こる直前に集中していたとする。これらは、状態変化仮説を支持する結果といえるとした。

  • あくびと行動変化の時間関係を示す積み上げヒストグラム

    あくびと行動変化の時間関係を示す積み上げヒストグラム(出所:北大プレスリリースPDF)

研究チームは、今回の研究成果について、魚類のあくびが少なくとも部分的に、内温動物のあくびと共通の機能を持つ可能性を示唆しているとする。またそれに加え、内温動物と外温動物のあくびが相同ではないとする通説を覆す研究といえるとしている。

なお、魚類は地球上で最初にあくびをした分類群と考えられており、今回の研究成果が、魚類だけではなく動物界におけるあくびの起源の理解にも重要な貢献を果たすことが期待されるとした。