韓国水原地方検察庁防衛事業・産業技術犯罪捜査部が、1年にわたる捜査により、Samsung Electronicsの子会社で、韓国最大の半導体製造装置メーカーSEMESの元社員(主犯)、元研究員、協力会社代表、中国籍のブローカーら5名をSamsung向けの先端半導体洗浄装置に関する技術情報を中国企業に流した産業技術保護法違反および不正競争防止法違反(営業秘密の国外漏洩)の容疑で1月13日に起訴したと複数の韓国メディアが報じている。
Samsungの超臨界流体洗浄・乾燥技術が中国に流出
2016年にSEMESを退社し2019年に新たに半導体洗浄装置メーカーを設立した主犯の被告は、2021年6月、Samsungが世界で初めて実用化した超臨界流体を用いたウェハ洗浄・乾燥装置の図面をブローカー経由で中国企業に渡したという。
主犯の人物は中国の半導体メーカーに超臨界洗浄装置10台(1台当たり248億ウォン)を納品し技術移転の協約も結んでいたともされており、これらの装置は、SEMESの協力会社が極秘に製造していたものだという。また、SEMESは、Samsungの依頼で費やした超臨界技術開発研究費(2009年から2021年までに約350億ウォン)などの直接損害を受けたと推定されるという。
さらに、SEMESの元研究員と共謀してSEMESのリン酸を用いた枚葉式ウエット洗浄装置技術情報を持ち出した容疑も受けているほか、被告らはウェット洗浄装置20台を中国企業に売り1139億ウォンを得た疑いも持たれている。
超臨界流体洗浄技術については、韓国通商産業資源部(日本の経済産業省に相当)が2021年に「国家核心技術」に指定し、海外に技術流出せぬように警戒していた。検察関係者は「半導体装置分野の技術競争力低下は半導体生産競争力低下につながり、産業全般にわたって数兆ウォン以上の被害が発生する可能性がある」と話している。
なお、SEMESは、1993年にSamsungと大日本スクリーン製造(現SCREENホールディングス)の合弁会社「K-DNS」として韓国で設立。その後、SCREENが合弁から徐々に撤退し、現在はSamsungの100%子会社となっている。Samusng向けの洗浄装置、ウェット処理装置を中心に実績を伸ばし、ドライエッチング、テスト、パッケージングなど洗浄以外の分野にも事業を拡大することで売り上げを伸ばしており、2021年の売上高は3兆1280億ウォン。超臨界流体洗浄・乾燥装置は、Samsungの特注品で外販はしていないと言われている。
SamsungはDRAMのパターン倒壊防止に活用
今回持ち出されたとされる超臨界流体洗浄技術は、先端DRAMにおいて高アスペクト比の回路パターンの倒壊防止を目的に、SamsungがSEMESに装置を依頼し、世界に先駆けて2010年代半ばに実用化したもので、いまだに学会などでも発表されておらず、SEMESも製造していることを公表せず、同社の商品リストにも記載されていないもの。臨界圧力(7.4MPa)、臨界温度(31℃)以上で、超臨界状態となる二酸化炭素(CO2)を活用し、表面張力が発生しない物性を利用して、高アスペクト比のDRAMの円柱状キャパシタを倒壊することなく乾燥する。
東京エレクトロンも超臨界流体洗浄装置を商品化
なお、DRAM製造で、Samsungの競合であるSK hynixやMicron Technologyは、SEMESから超臨界流体洗浄装置を購入できないため、東京エレクトロン(TEL)に開発を依頼。TELでは2021年1月より、量産実績のあるCELLESTAプラットフォームに超臨界乾燥専用チャンバーを搭載した超臨界流体枚葉洗浄装置「CELLESTA SCD」の販売を開始しており、超臨界流体洗浄乾燥技術そのものは、すでにSamsung/SEMESの独占技術ではなくなっている。