マネーフォワードは1月16日、オンラインで2022年11月期通期決算説明会を開催した。
同社はクラウド会計サービスなどバックオフィスSaaS(Software as a Service)などの事業を「ビジネスドメイン」、決済サービスを軸とした「ファイナンスドメイン」、FinTech推進・DX(デジタルトランスフォーメーション)支援の「Xドメイン」、会計簿などの「ホームドメイン」の4つのセグメントで事業を展開している。
説明会では、通期業績や各セグメントの第4四半期の業績概況とともに、2023年11月期の業績見通しが発表された。
通期連結売上高は前年同期比37%増の214億8000万円
通期の業績について、同社 代表取締役社長 CEOの辻庸介氏は、「売上高、SaaS ARR(Annual Recurring Revenue:年間経常収益)の期初見通しを達成できた。第4四半期単体での連結売上高は前年同期比42%増となり、過去最大の60億円を突破した」と概況を説明した。
通期の連結売上高は同37%増の214億8000万円で第3四半期説明会の見通し上限を上振れし、SaaS ARRは同45%増の163億円となった。4つのドメインの中でも、特にビジネスドメインの法人向けARRが同55%増の114億4000万円と高成長を維持したことが、今期の業績をけん引した。
ビジネスドメインの法人向けARRの内訳は、中堅企業向けのARRが同102%増、SMB向けARRは純増ユーザーの増加とARPA(Average Revenue per Account:課金顧客あたる売上高)の上昇で同38%増と第3四半期の同35%から拡大した。
2023年11月期は通期連結売上高270億9000~296億4000万円の見通し
ビジネスドメインは前年同期比48%増の44億7000万円、法人向けストック売上が同54%と高水準の成長が継続した。課金顧客数は同28.6%増、法人顧客数は同28.6%増で過去最高となった。法人ARPAはWebプランの価格改定効果、中堅企業ユーザーの拡大で同20.0%増となった。
同ドメインからは2023年2月に、プロジェクトの工数管理や個別原価計算が必要なビジネス向けのシステム「マネーフォワードクラウド個別原価」を提供開始する予定だ。
ファイナンスドメインは前年同期比58%増の3億200万円となり、請求・決済代行事業(ストック売上)が同61%増の1億1200万円、売掛金早期資金化事業(フロー売上)が同56%増の1億9000万円。トピックとしては「マネーフォワード ケッサイ」「SEIKYU+」において、インボイス制度の対応が開始した。
Xドメインは前年同期比1%減の5億300万円、ストック売上は同30%増の2億4700万円となり、引き続き同売上の成長を見込む。「Mikatano」をはじめとする、金融機関などの法人顧客向けサービスの導入が進み、提供サービス数は126件まで増加した。第3四半期に引き続き、金融機関の法人顧客向けDXソリューションを強化することで、ストック売上比率60%を目指す方針だ。
ホームドメインでは、「お金のEXPO」などのイベントの収益が前年同期比で増加し、過去最大の売上を更新。売上高は前年同期比46%増の9億200万円。トピックとしては、家計簿・資産管理アプリ「マネーフォワード ME」のプレミアムサービスに、サブスクリプションサービスの支払い状況を一目で把握できる「サブスクレポート機能」を追加されたことが紹介された。
今後の業績見通しについて、2023年11月期の連結売上高は前年比28~38%増の270億9000~296億4000万円、期末のSaaS ARRは同30~40%増の211億8000~228億2000万円を見込む。
同期の第1四半期の売上高は同32~38%増の62億8000~65億6000万円、第1四半期末SaaS ARRは175億5000~180億1000万円の見通しだ。
法人ARRの成長に向けて、第1四半期で14億円~16億円の広告宣伝費の投下を予定し、EBITDA(税引前利益に支払利息、減価償却費を加えて算出される利益)はマイナス17億円から12億円の改善を見込む。
同期では人員増加への対応および社員のエンゲージメント強化を目的とした本社オフィスの増床を計画しており、第1四半期において2億1000万円の費用増加要因となる。
同社 取締役執行役員 CFOの金坂直哉氏は、売上規模の大きいビジネスドメインの業績見通しについて、「2023年度のSaaS ARRの見通し(下限)について、ビジネスドメインの法人向けARRは前年度期比34%増の152億7200万円と、2022年度のARR純増額を大きく上回る成長を想定している」と補足した。
4つの成長戦略をアップデート
説明会では、同社の4つの成長戦略のアップデートと今後の取り組みについても解説された。
「バックオフィス向けSaaSプラットフォームとしての更なる提供価値向上と投資規律を持ったGo to Market戦略の遂行」では、中堅企業に対してコンポーネント型ERP戦略の推進とクロスセルによるARPAの最大化を図る。また、SMB向けには会計事務所のクラウド化を加速させ、インボイス制度の追い風を生かしてユーザー基盤の拡大を進める方針だ。
「事業ドメイン間のシナジー最大化と、全社的な生産性の改善」では、ドメイン間での相互送客とプロダクト開発の横展開の継続、1人当たり生産性(売上高)の向上に取り組む。
「SaaS × Fintechによる新たなユーザー価値創造」に向けては、金融機関との協業を加速させ、Mikatanoのユーザー基盤とAPI連携を拡大する。また、クラウドサービス内への送金・決済機能の組み込みといったEmbedded Financeや、会計データを活用したリアルタイム与信やオンラインファクタリングのサービス開発も進める。
「規律あるM&A(グループジョイン)戦略の継続と、グループ資本戦略の最適化の推進」にあたっては、積極的なソーシングを継続しつつ戦略的に厳選してM&Aに取り組む。このほか、子会社であるスマートキャンプの企業価値最大化に向けて、中長期的には同社のIPOも目指す方針だ。
最後に辻氏は、「現在、SaaSのストック収益最大化に向けた取り組みを進めているが、今後FinTech関連のサービスを伸ばしていく中ではトランザクション収益を創出し、そのうえでM&Aも積極的に実施していく」と語った。