キーサイト・テクノロジーは1月13日、同社の5G & 6Gプログラムマネージャーであるロジャー・ニコラス(Roger Nichols)氏と6G Strategy担当バイスプレジデントのジャンパオロ・タルディオーリ(Giampaolo Tardioli)氏の来日を機に、6G(第6世代移動通信システム)の取り組みに関する説明会を実施。6G開発の現在の状況説明を行った。
6Gの時代とはどういったものとなるのか?
6Gの商用化は2029年~2030年ころと見られており、通信キャリアをはじめとするさまざまな企業が協力して、その規格策定や技術開発などが進められている。Nichols氏は、「6Gは、基本的にモバイル環境におけるデータ通信技術をベースに開発されることに変わりはないが、ヒト、デジタル、実世界をつなげる技術という位置づけになる。ネットワークとしては、プログラマブルでユビキタスな、世界のどこに居てもつながるという時代を実現するというものになる」と説明する。
2Gの音声コミュニケーションの時代から3Gによるデータ通信の時代、4G、5Gとデータ通信速度の向上や、その適用領域の拡大がなされてきた。6Gはそうした流れを受け継ぎ、より低レイテンシ、高可用性、高速かつプログラマブルなネットワークの実現を目指すことで、より広範な分野でのワイヤレスネットワーク活用が目指されることとなる。
キーサイトが目指す6G実現に向けた課題
「キーサイトとしては、高電力効率かつ低コストで使い勝手の高いソリューションを実現するツールの提供を目指す。それがサステナビリティの実現にもつながる」と同氏は説明する。ここで重要になってくるのが、“プログラマブル”だという。5Gの実用化にあたっては、オープン仕様に基づくOpen RANや、ネットワークの仮想化技術などの活用が進むが、6G時代は、より高度なハードウェア、ソフトウェアの仮想化の活用が期待されるとする。「6G時代には、ネットワークスライシングの概念を拡張し、ダイナミックにセッションレベルでスライスを行動ごとに切り替えるといったことが要求されるようになる。また、工場などの生産ライン変更などを追加の機器なしに実現するといったニーズもプログラマブルであれば実現可能となる」とし、そうした実現にはAIや機械学習(ML)の活用も併せて重要になってくるとする。
さらに、デジタルツインの本格活用も6G時代のキーワードになるとする。現在の4G/5G環境でも、特定の機器に対するデジタルツインの活用は進められているが、6G時代に想定されるのは、工場まるごと、都市まるごと、鉄道網全域といったような、広い範囲でのデジタルツインの実現だという。そうした大空間でのデジタルデータ活用を考えた場合、より高速かつ広帯域な通信を実現する必要があるという。
加えて、無線ネットワーク上に接続される機器は年々増加していくため、データの生成量は増加し続ける一方、同時にエネルギー消費量の増加も懸念され、CO2排出削減といった観点からの電力の削減が求められることにもなる。「そうした電力消費の削減は、ネットワークのあらゆる部分で実現されるべき」だともしており、そうした低消費電力技術やソリューションの開発を進めている研究機関や大学などとも連携し、通信ネットワーク上で最大の電力消費とされ、その効率も40%程度とされるパワーアンプの効率向上や次世代パワー半導体の活用に向けた取り組みを進めていくとする。
地球から圏外がなくなる6G時代
6Gのスケジュールとしては、移動体通信の標準化団体「3GPP(3rd Generation Partnership Project)」では、2025年ころから取り組みが本格化する見通しだという。そして同時期に出される「Release 20」にて6Gの検討項目が提起され、その次の「Release 21」で実装可能な規格が示される予定であり、2025年予定の大阪万博や2028年予定のロサンゼルス五輪といった世界的イベントにて、その技術の一端が披露される見通しだという。
その実現の最大のカギを握るのは、新たな周波数に対応するためのさまざまな技術開発となる。特に、通信帯域幅の拡大を目的に、採用される周波数も7GHz~24GHzといった帯域や、100GHz~300GHz程度のサブテラヘルツ波の帯域も期待されている。
また、5Gにてすでに動きがある「非地上系ネットワーク(NTN:Non-Terrestrial Network)」も6Gでは当たり前になるほか、水中や地下(坑道など含む)といった領域との通信も視野に入っているとする。地上3万6000kmの静止衛星、スターリンク(Starlink)やOneWebが活用している地上約600kmや約1200km、約340kmといった低軌道衛星、地上20kmあたりの「HAPS(High Altitude Platform Station)」、そして水中や地下まで、ありとあらゆるところと通信を可能とすることで、地球から圏外という文字が消えることとなることが期待されている。
こうした6Gも実現に向け、各国政府も積極的な協力姿勢を見せているという。「最近の情報では、インドもまだ5Gの展開が終わってないにも関わらず、6Gに対するかなりアグレッシブな動きを見せている」という。
そうした中で日本はユニークな立ち位置にあると同氏は指摘。「島国であり、独特の都市形成がなされてきた。また、顧客の通信品質やカバーエリアに対する期待値が高い地域であるほか、大都市圏では電車通勤が多く、それ特有の周波数の活用が求められるといった面もある。そうした地理条件や社会条件を鑑みると、NTNの重要性が高まると考えられ、パートナーからも大きなテーマとして捉えているという言葉をもらっている。加えて、業界コンソーシアムや研究機関の活動も活発であり、キーサイトとしてもビジネスパートナーとして重要な地域とするだけでなく、6Gの開発という意味でも重要な役割を担う地域であると認識している」と、その背景を説明する。
なお、2023年初頭時点で、6Gの定義は終わっていない。ファーストリリースとなる2025年まで2年ほどあり、キーサイトとしては、5Gの実現で活用されてきた計測ソリューションの中には6Gの開発にも対応できるものがあり、そうしたものを開発の初期段階では活用してもらいつつ、2年先の本格開発開始に向けたニーズへの対応に向け、主要なキープレイヤーたちと情報交換を積極的に行い、必要なものを必要な段階で提供できるような開発体制を構築していきたいとしている。