宇宙生活を地上で模擬する精神ストレスの研究で捏造(ねつぞう)や改ざんなどの不正が多数あった問題で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)は実施責任者の古川聡飛行士を戒告の懲戒処分とするなど、関係者を処分したと発表した。12日に東京都内で会見した古川氏は「不適切な研究とマネジメントにより国民の信頼を損ねた。責任を痛感しており、心より深くお詫び申し上げる」と述べた。JAXA飛行士の処分は初。古川氏は来年度に国際宇宙ステーション(ISS)に長期滞在の予定で、変更はないという。
古川氏は会見で「私は業務で『トラスト・バット・ベリファイ』を目指している。仲間を信頼するが、念のため確認せよという意味だ。本件ではこのベリファイが不十分で、専門家に任せる信頼の気持ちが勝ってしまった。役割分担するにしても、しっかりしたプロセスで実施しているかを確認すべきだった」、「限られた人員と厳しいスケジュールの中でいかに研究を進めるか、必死になってしまった。マネジメントに適切に実情を伝えて調整すべきだった。研究開始時点から多くの方に指摘を頂いており、真摯に受け止めるべきだった」などと振り返った。
血液試料の取り違えでは、古川氏が問題を覚知後、倫理審査委員会に連絡するまでに約1カ月が経過した。これについて「原因解明を優先すべきだと考えたが、おかしなデータが出た段階ですぐ報告すべきだった」と説明。自身の来年度のISS長期滞在については「自分自身の倫理規範も向上させて対策を講じ、与えられた任務をしっかり行い、信頼回復に努めたい」と繰り返し、変更がないことを強調した。会見は、直接説明したいとの古川氏の希望で開いたという。
問題があったのは、JAXA筑波宇宙センター(茨城県つくば市)にある閉鎖施設で2016~17年に5回行った実験。将来の火星探査など数年に及ぶ有人飛行を念頭に各回、8人が2週間滞在し、生理データの測定や面談による心理診断を行う計画だった。ところが調査すると診断結果の捏造、面談結果の改ざん、計算ミス、データの鉛筆書き、研究ノートがほとんど作られないなど、多数の問題が判明。JAXAが昨年11月25日に発表した。問題が生じた内容は、学術目的の発表はしていないという。
理化学研究所が発表したSTAP細胞論文の問題が明るみになり、科学研究の不正が大きな社会問題となったのが2014年。そのわずか2~3年後に今回の不正が行われた。会見での「他山の石にできなかったか」の質問に、佐々木氏は「JAXAがしっかり認識し、ルールを作ったことは間違いない。一方、研究者一人一人が理解すべきだったが、末端まで伝わっていなかった。教育、指導を働きかけねばならなかった」と答えた。
有人宇宙技術部門の小川志保事業推進部長は「JAXAとして、人の安全を守るという医学研究の理解度、練度が本当に低かったのでは。STAP問題があった時、(研究者は)自分のこととして納得しなければならなかったが、果たして医学研究ではどうだったか。深堀りして確認していなかったからこそ、この状態になった。今こそ振り返り、是正すべきだ」とした。
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