名古屋大学(名大)は1月11日、加齢に伴い変化する関節軟骨の物理特性に着目し、加齢とともに硬くなった関節軟骨が機械的シグナルを介して長寿タンパク質「Klotho」(クロトー)の遺伝子発現を制御することで、「変形性関節症」を誘発する発症メカニズムを発見したと発表した。
名大 高等研究院(大学院 医学系研究科兼任)・世界で活躍できる研究者戦略育成事業(文部科学省)の採択事業である世界的課題を解決する知の「開拓者」育成事業(TGEx)育成対象研究者の飯島弘貴YLC特任助教、米・ハーバード大学医学部のFabrisia Ambrosio准教授を中心に、米・ピッツバーグ大学、米・メイヨー・クリニック、米・カリフォルニア工科大学、京都大学の研究者も参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。
生物である以上、老化は避けられないものという認識が一般的だが、医学の世界ではそれが「予防や治療のできる病」として、認識されるようになってきている。実際、世界保健機関(WHO)も2019年には、国際疾病分類ICD-11に項目として「老化関連」を追加。現在、加齢が主要因となって生じる疾患の病態解明や治療法の開発が期待されており、老化に関する市場規模も急拡大しているという。
こうした背景のもと、まだ根治治療が存在しない関節軟骨疾患である変形性関節症を対象に基礎医学研究を進めているのが研究チームとなる。
加齢による関節軟骨の特徴的変化は、細胞外マトリックスの構成成分や構造の変化である。細胞外マトリックスのリモデリングにより、コラーゲン線維の増大やコラーゲン線維同士の架橋形成が生じることで、組織の硬さが加齢依存的に増大してしまうことが原因だという。実際、原子間力顕微鏡を用いた実験によって、老齢マウスの関節軟骨は若年マウスよりもおよそ3~3.5倍の弾性を有することがわかっている。
この加齢に伴う組織の物理特性変化は、異常な機械的シグナル伝達を介して組織細胞の老化や機能低下を引き起こすとされるが、その背景にある分子メカニズムは明らかにされていなかった。そこで研究チームは今回、長寿タンパクα-Klothoに着目し、加齢によって発現が減少する同タンパク質の関節軟骨における機能解析を進めることにしたという。