高エネルギー加速器研究機構(KEK)、理化学研究所(理研)、大阪大学(阪大)の3者は1月6日、理研の重イオン加速器施設「RIビームファクトリー」の超伝導RIビーム生成分離装置「BigRIPS」および低速RIビーム生成装置「SLOWRI」と、多重反射型飛行時間測定式質量分光器「MRTOF」を用いて、中性子過剰なチタン(Ti)とバナジウム(V)の同位体の高精度質量測定に成功し、近年確認された中性子数34において生じる新たな「魔法数」が、TiとVの同位体においては消失していることがわかったと発表した。

同成果は、KEK 素粒子原子核研究所 和光原子核科学センターのマルコ=ローゼンブシュ特任助教、阪大大学院 理学研究科 物理学専攻の飯村俊大学院生(現・理研 仁科加速器科学研究センター 低速RIビーム生成装置開発チーム ジュニアリサーチアソシエイト)らを中心とした30名の研究者が参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、米国物理学会が刊行する機関学術誌「Physical Review Letters」に掲載された。

原子核において、陽子または中性子の個数が2、8、20、28、50、82、126個の時は安定性が強くなることから、魔法数と呼ばれている。ところが近年になって、魔法数が絶対ではないこともわかってきた。陽子数と中性子数のバランスが大きく崩れたエキゾチックな原子核においては、既知の魔法数の消滅や、新しい魔法数の出現が報告されるようになってきており、魔法数の盛衰は原子核構造研究の重要課題の1つとなっている。

魔法数性を実験的に調べる指標として、ガンマ線分光による第一励起準位エネルギーの測定や、原子質量の系統的測定による殻間隙エネルギーの測定がよく利用されている。たとえば、原子核全体の2中性子殻間隙エネルギーについては、それを立体的な棒グラフで表すと、中性子魔法数において明瞭な尾根を確認することが可能とされている。

具体的には、2つ隣の同位体の質量差のさらに差をとった量(2階差分)が2中性子殻間隙エネルギーΔ2nに相当し、いかに急に質量が大きくなるか(結合エネルギーが小さくなるか)を示す量である。ここで2つ隣を比較するのは、中性子数が偶数と奇数では大きく特性が異なることが理由である。

たとえばカルシウム同位体においては、ガンマ線分光および質量測定の両方で、中性子数N=32と34で新しい魔法数になっていることが発見されている。さらに最近の実験では、N=34を持つ隣の原子核(同調体)で、スカンジウム(Sc)では魔法数性は消えているが、その次に原子番号の大きいTiやVでは再び魔法数性が現れているという奇妙な報告もされていた。そこで研究チームは今回、TiとVの同位体の質量をより精密に測定し、この現象を確実に確認することにしたという。