物質・材料研究機構(NIMS、茨城県つくば市)は、新構造材料技術研究組合(ISMA、東京都千代田区)が2013年度から10年間にわたって研究開発を続けてきた「革新的新構造材料プロジェクト」が2023年3月に終わることを受けて、これまでの研究開発成果を受け継ぐためのNIMS鉄鋼信頼性拠点を築き始め、「例えば2GPa級の超々ハイテンション・スチール(通称:ハイテン=高張力鋼)を実用化するための研究開発・技術支援をする体制を固めつつある」と、津崎兼彰NIMSフェローは解説する。

「革新的新構造材料プロジェクト」の中で、日本製鉄やJFE、神戸製鋼所などの企業は1.5GPa級や2GPa級の超々ハイテン・スチールの研究開発を続けてきた(参考記事1)。こうした超々ハイテン・スチールを実用化するには、その超々ハイテン・スチールの使用時に疲労によって起こるき裂の進展などをきちんと調べる研究開発が当然、不可欠になる。こうした実用化ニーズを考えて、「実は、NIMSでは高倍率パノラマ撮影法によって、鋼の疲労時のき裂の発生・進展を調べる“その場観察法”の装置を導入し、研究開発し始めている」と、津崎フェローは解説する。しかも、この“その場観察法”の装置では、「超々ハイテン鋼のき裂発生位置とそのき裂の進展挙動を、鋼のミクロ組織と“紐づけ”して観察できる“自動その場観察”できる疲労き裂進展追跡装置による研究開発が進んでいる」と、津崎フェローは具体的に解説する。

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さらに、NIMSには「材料データプラットフォーム DICE」(図1)というデータの利用・活用を進める大掛かりな研究開発プロジェクトを、統合型材料開発・情報基盤部門(MaDIS)が進めている。このため、その「材料データプラットフォーム DICE」に、超々ハイテン・スチールの開発向けに疲労現象などのデータを蓄積し、活用するためのデータを格納する計画を進めている。このように、鉄鋼メーカーが進めている超々ハイテン・スチールの研究開発・実用化向けに、「マルテンサイト鋼の時間依存型損傷などを解析するデータの利活用を図っていく予定だ」と、津崎フェローは解説する。

  • 物質・材料研究機構(NIMS)が構築している「材料データプラットフォーム DICE」

    図1 物質・材料研究機構(NIMS)が構築している「材料データプラットフォーム DICE」

実は、津崎フェローはNIMSが2001年度に独立行政法人化した際に、NIMSが進め始めた“超鉄鋼研究開発”を担当する超鉄鋼研究センターの幹部として研究開発を進めたキーマンの一人だ。その後に、津崎フェローは九州大学(九大)大学院に移籍し、九大教授として、鉄鋼の研究開発を担当してきた。九大大学院での定年を経て(現 九大 名誉教授)、NIMSに戻り、現在は超々ハイテン・スチールの開発向けの「マルテンサイト鋼の時間依存型損傷」などの研究開発データをまとめる“NIMS鉄鋼信頼性拠点”を整備し始めている。

この“NIMS鉄鋼信頼性拠点”の整備計画は、文部科学省が2022年9月から始めた「データ創出・活用型マテリアル研究開発プロジェクト」の一環として進められいる。この「データ創出・活用型マテリアル研究開発プロジェクト」自身は、東北大学がその代表機関として、「極限環境対応構造材料研究拠点(通称:RISME)」として研究開発態勢を固めつつある。

この極限環境対応構造材料研究拠点では、高温環境下でのクリープ現象の解明、超高サイクル負荷下での疲労環境など、損傷・破壊のメカニズムを解明し、かつ順・逆問題解析の連携・統合などの最先端データサイエンスによる鋼などの複雑なミクロ構造の特徴量抽出などと「計算材料科学による大規模計算技術」を進展させる難問に挑戦する研究開発になる見通しだ。

極限環境対応構造材料研究拠点(RISME)は、東北大とNIMSに加えて、九大、大阪大学、東京大学、横浜国立大学、名古屋大学、日本原子力研究開発機構などが参加し連携する見通しだ。