米国の火星探査車「パーシビアランス」が岩石などの試料を入れた容器を、火星の地表に配置し始めた。火星の試料を地球に運ぶ構想の一環で、特定の方法がうまくいかない場合のバックアップ用として配置するもの。地球上に落下した隕石を除き、他の惑星の試料を人類が初めて直接に手にすることを目指す。地球で詳しく分析し、かつて火星に生命がいた可能性などを探る。

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    パーシビアランスが火星の地表に最初に配置した試料容器(NASA、米カリフォルニア工科大学、米MSSS社提供)

米航空宇宙局(NASA)の資料などによると、NASAと欧州宇宙機関(ESA)は、火星の試料を地球に運ぶ「MSR(マーズ・サンプル・リターン)」を推進している。まずパーシビアランスが試料を採取して多数の容器に詰め、機内に保管。火星にやって来るNASAの着陸機「SRL(サンプル・リトリーバル・ランダー)」に試料を引き渡し、SRLに搭載した小型ロケットで打ち上げる。火星上空でESAの「ERO(アース・リターン・オービター)」が試料を捕獲して地球に届ける。SRLは2028年、EROは27年に打ち上げ、試料は地球に33年に届くという。

もしパーシビアランスがSRLに試料容器を渡せない場合はバックアップの方法として、SRLが搭載する2機の小型ヘリコプターが、予めパーシビアランスが地表に配置していた試料容器を回収する。パーシビアランスは先月21日、この試料の配置を始めた。「ジェゼロクレーター」で昨年1月に採取した火成岩を入れた容器を、機体から投下した。これを皮切りに、1~2カ月かけて10個を置く。置き場所は、ヘリコプターが回収しやすいよう綿密に工夫されている。

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    MSRで活躍するさまざまな機体の想像図。地表の左がパーシビアランス、右がSRL。空中の左からヘリコプター、ERO、小型ロケット(NASA、米カリフォルニア工科大学提供)

容器は長さ15センチなどの細長い円筒状で、主にチタンでできている。計43個のうち38個は地表の岩石や砂、大気の試料を採取できるよう、残る5個は地球から運んでしまった不純物などを把握するよう、それぞれ準備された。パーシビアランスは2021年8月から試料を採取し、容器に封入している。43個のうち21個が封入済みという。

米国は1997年、重さ10キロあまりの「ソジャーナ」を皮切りに、火星に探査車を送り続けている。最新のパーシビアランスは2021年2月に火星に着陸。重さ約1トンで、12年から運用中の先代「キュリオシティー」をベースに開発された。6つの車輪を持ち、支柱の上にカメラを搭載した基本構造を踏襲しつつ、カメラや分析装置の性能を大幅に向上させている。パーシビアランスは不屈、忍耐を意味する。

今の火星は極寒で乾燥した星だが、30億年ほど前には温暖かつ湿潤で、生命を維持し得る条件があったことが、これまでの探査や研究を通じ分かってきた。火星の生命探しには、地球の生命の起源や進化の理解を深めるための重要な意義もあるという。

人類は月や、太陽の大気の吹き出しである太陽風、彗星、小惑星の試料を直接に手にしているが、惑星はまだ実現していない。隕石は火星由来のものも見つかっている。ただ地上に落下した時に高温になるなどして変質していることから、研究上、天体の物質を直接採取することが重要とされる。

一方、日本は火星の衛星フォボスの試料を採取して地球に運ぶ「MMX(マーシャン・ムーンズ・エクスプロレーション)」計画を進めている。先月改訂された政府の宇宙基本計画工程表によると、2024年度に打ち上げ、29年度に地球に試料を回収する。順調にいけば、米欧より4年早く「火星圏」から試料を運ぶことになる。

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    フォボスの地表で試料を採取するMMX探査機の想像図(JAXA提供)

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