米国航空宇宙局(NASA)などは2022年12月23日、15日に発生したロシアの「ソユーズMS-22」宇宙船からの冷却材漏れについて記者会見を開き、原因は依然不明で、宇宙船の状態や今後のミッションへの影響についても調査中であると明らかにした。30日には、場合によっては宇宙飛行士の帰還のために別の宇宙船を使う可能性も示唆した。

一方、ロシア国営宇宙企業「ロスコスモス」も27日、声明を発表し、原因の解明や宇宙船の状態の分析をさらに進め、2023年1月中にも、地球帰還の可否も含め、今後の対応について最終的な結論を出すとしている。

  • ソユーズMS-22宇宙船から冷却材が漏れ出ている様子

    ソユーズMS-22宇宙船から冷却材が漏れ出ている様子 (C) NASA TV

調査は進むも原因は未だ不明

ソユーズMS-22宇宙船は2022年9月21日、ロシアのセルゲイ・プロコピエフ宇宙飛行士とドミトリー・ペテリン宇宙飛行士、NASAのフランク・ルビオ宇宙飛行士の3人を乗せ、カザフスタン共和国のバイコヌール宇宙基地から打ち上げられた。その約3時間後には、ISSにドッキング。現在まで係留されている。計画では今年3月28日に、乗ってきた3人の宇宙飛行士を乗せ、地球に帰還することになっていた。

しかし、日本時間12月15日9時45分ごろ、機体後部にある熱制御システムを流れる冷却材が漏れ出す事故が発生した。

ISSには、プロコピエフ氏をコマンダー(船長)とし、日本の若田光一宇宙飛行士も含め計7人の宇宙飛行士が滞在しているが、クルーには危険はなかった。ただ、このとき準備が行われていたロシアの宇宙飛行士2人による船外活動は中止となった。

NASAとロスコスモスは共同で調査にあたり、ロボットアームの先端に取り付けたカメラを使い、損傷が起きたとみられる場所の写真を撮影するなどして分析を進めた。また、16日17時過ぎ(日本時間)には、ソユーズMS-22のスラスターを噴射する試験を実施。船内の温度、湿度が許容範囲内にとどまることを確認したとしている。ただ、スラスター噴射試験の前後には、船内温度が40℃、あるいは50℃まで上がったという報道も流れた。

  • ロボットアームを使いソユーズMS-22を調査する様子

    ロボットアームを使いソユーズMS-22を調査する様子 (C) NASA TV

こうしたなか、23日にNASAとロスコスモスは共同で記者会見を開催。これまでの調査の結果、外壁に直径数mmの穴が開いており、冷却材が流れるパイプにも損傷がおよび、そこから冷却材が漏れ出したことがわかったと明らかにした。

ただ、穴が開いた原因は依然不明という。NASAは「現時点では、マイクロメテオロイド(微小隕石)の衝突なのか、スペース・デブリ(宇宙ごみ)の衝突なのか、あるいはそれ以外の原因によるものなのかは断定できない」としている。ただし、以前にロシアの宇宙当局者の発言や一部メディアの報道であった、「ふたご座流星群の発生源となる宇宙塵(ダスト)の衝突」という可能性は、飛来方向などの観点から除外されている。

なお、ロスコスモスは27日に関係者による会議を開催。その後発表された声明では、「船の熱制御システムのラジエーターの故障は、外部の機械的損傷により発生したことが確認された」としている。「外部の機械的損傷」がどのような原因で発生したのかは触れられておらず、23日のNASAの会見時と同じく、マイクロメテオロイドやデブリの衝突のほか、さまざまな原因の可能性に含みを持たせている。

またNASAによると、冷却材はISSの外側に向かって漏れ出したため、ISSの太陽電池や外壁、窓、実験機器などへの汚染の心配はないという。

  • ISSに接近するソユーズMS-22宇宙船

    ISSに接近するソユーズMS-22宇宙船 (C) NASA

代わりのソユーズ宇宙船を打ち上げか?

一方、ソユーズMS-22の現在の状態や、今後も運用可能か、すなわちプロコピエフ氏らを乗せて安全に地球に帰還させることができるかどうかについても、現時点では調査・評価中としている。

熱制御システムは運用のために必要不可欠なものであり、前述のように船内温度が40~50℃まで上がるようであれば、宇宙飛行士の生命に危機が及ぶうえに、そもそも宇宙船の搭載機器のコンピューターやセンサーなどが正常に動作しなくなり、使用不能な状態となる危険性もある。

当初の計画では、ソユーズMS-22は3月に、プロコピエフ氏ら3人を乗せて地球に帰還することになっており、またその間、ISSで大規模な事故などが発生した場合には、3人を乗せて緊急脱出する救命ボートとしての役割も担っている。そのため、もしソユーズMS-22が使用不能であれば、代わりの宇宙船を送り込むなどの対応が必要となるばかりか、その間脱出手段がないという危険な状態が続くことになる。

23日の会見に登壇した、ロスコスモスで有人宇宙計画の責任者を務めるセルゲイ・クリカレフ氏によると、ソユーズMS-22が使用不能と判断された場合、次のソユーズMS-23を無人で打ち上げてISSにドッキングさせ、プロコピエフ氏らを乗せて帰還させる選択肢もありうるとしている。

クリカレフ氏はまた、ソユーズMS-23の打ち上げは3月16日に予定しているが、必要なら2~3週間早めて打ち上げることが可能だという。これはおそらく、無人で打ち上げる場合には必要な試験などを一部簡略化できるためとみられる。

なお、ロスコスモスは当初、27日に開催した会議において、ソユーズMS-22の運用継続の可否や、ソユーズMS-23の早期打ち上げの要否についても結論が出されることになっていたが、まだ調査や評価が続いていることから、2023年1月まで決定が延期されることになった。

一方NASAは30日、「まずはソユーズMS-22の状態を理解することが大前提だが」と前置きしたうえで、「『クルー・ドラゴン』宇宙船を運用するスペースXに、緊急時に追加の宇宙飛行士を乗せて地球に帰還させることができるかどうかを問い合わせた」ことを明らかにした。

ISSには現在、スペースXのクルー・ドラゴン宇宙船運用5号機が停泊している。クルー・ドラゴンは基本的に定員4人で運用されているが、本来は最大7人まで搭乗できるように設計されており、もともと搭乗していた4人のクルーに加え、プロコピエフ氏らを追加で乗せて帰還できる可能性がある。ただ、安全性の評価や、実施のための準備など、実現に向けた課題は多いものとみられる。

  • ソユーズMS-22のクルー

    ソユーズMS-22のクルー。左から、フランク・ルビオ宇宙飛行士(NASA)、セルゲイ・プロコピエフ宇宙飛行士(ロスコスモス)、ドミトリー・ペテリン宇宙飛行士(ロスコスモス) (C) NASA/Victor Zelentsov

参考文献

Spacewalk Postponed to Thursday, Managers Discuss Soyuz Leak Inquiry - Space Station
Station Crew Wraps Up a Busy Year as Soyuz Review Continues - Space Station
Roskosmos | VK
SpaceX - Dragon