LegalOn Technologiesは、2022年12月1日に旧名である「LegalForce」から社名を変更し、新事業としてUSに子会社を立ち上げたと発表した。
そこで、新たな挑戦を発表したLegalOn Technologiesの代表取締役である角田望氏に、転換期となったこの昨年の振り返りをはじめ、創業時からの事業に対する想いを聞いた。
【LegalOn Technologiesの過去】 起業のきっかけは「AIの進化」
LegalOn Technologies(旧LegalForce)は、2017年4月に当時大手法律事務所で弁護士として働いていた角田氏と小笠原匡隆氏の2名が創業した「法律業務に関するソフトウェアの研究・開発」を行う企業だ。2022年12月に同社が新しく発表した 「法とテクノロジーの力で、安心して前進できる社会を創る。」というパーパスにも表現されている通り、「法律」と「テクノロジー」を融合させ、契約業務に関わる方々を総合的に支援し、企業法務機能の強化に取り組んでいる。社内には、実際に角田氏をはじめ弁護士資格を保有する社員も多い。
そんな弁護士資格を持つ角田氏がなぜ「ソフトウェア開発」の企業を立ち上げたのだろうか?
「起業した背景にはさまざまな要因がありますが、最大のきっかけは『AIの進化』に可能性を感じたからです。海外の法律事務所がAI弁護士の雇用を開始したというニュースは、当時の私にとって衝撃的な出来事でした。それをきっかけにテクノロジーの力を活用して『契約業務』を手助けする会社を立ち上げたいと強く想うようになりました」(角田氏)
このような想いから起業を志した角田氏だったが、LegalOn Technologiesの主力プロダクトである「AI契約レビュー」に着目したのは自身の経験があるという。
「LegalOn Technologies(起業当時はLegalForce)の起業前は、契約業務以外の弁護士活動も多く行っていました。しかし、弊社と同時に立ち上げた法律事務所ZeLoで企業の法務部門の仕事を経験したことが、今のAI契約審査に注力しようと決めたターニングポイントだったと思います」(角田氏)
角田氏は、企業の法務部のサポートとして契約書のレビュー担当をした経験があり、その際に法務部のリソースが契約業務に大きく割かれていることを痛感したという。契約審査業務を効率化することで、法務部門の担当者が企業の成長につながる業務に注力できるようになるのではと考えたことが、AI契約審査プラットフォーム「LegalForce」の誕生につながっているそうだ。
「契約業務の効率化を叶えるソフトウェアの開発をプロダクトとして決めたものの、起業当初は、開発をしてくれるチームを立ち上げることに苦労しました。私自身が法学という文系出身なので、どこまで理想としているものを具現化することができるのか見えないことも多く、手戻りも多く発生させてしまいました。最終的にプロダクトをリリースできたのは創業から1年4カ月後の2018年8月でした」(角田氏)
【LegalOn Technologiesの現在】 長年目指してきた「米国進出」を決めた2022年
プロダクトの完成まで四苦八苦したLegalOn Technologiesだったが、その後はさまざまな企業や法律事務所に導入され、現在では2,500社を突破するまでに成長した。
そんなLegalOn Technologiesは、次の挑戦として「米国進出」を掲げた。
「今回の社名の変更も米国への進出が大きく関係しています。弊社のアイデンティティである『法(Legal)』と『テクノロジー(Technology)』を、『接触』を意味する『On』で結ぶという意味合いが込められており、世界共通の新社名としてこの名前を採用しました」(角田氏)
同社は今年の9月に「LegalOn Technologies,Inc」という名称で、アメリカのサンフランシスコに子会社を設立している。この企業はLegalOn Technologiesの子会社という立場ではあるものの、「アメリカのスタートアップ企業」という地位を確立していくことを狙っていくという。
「今後も会社が持続的に成長し、価値を提供し続けるためにはグローバルでも価値提供をしていきたいと長年思っておりました。自信を持って自分たちのプロダクト世界に届ける準備ができた今、アメリカ進出に挑むことにしました。また、グローバル戦略部の設置を皮切りに、資金調達やアメリカのリーガルやテクノロジーに知見がある強いメンバーがjoinしてくれたことなど、アメリカ進出に必要なファクターが重なったことも大きかったと思います」(角田氏)
アメリカでは、2023年1月にAI契約レビューソフトウェアのβ版の提供開始、2023年中に自動レビュー対応類型が12種類になる予定と発表しており、同社のグローバル展開に期待が集まっている。
【LegalOn Technologiesの未来】 今年は60点?来年はより高得点が取れる年に
ここまでLegalOn Technologiesの過去と現在を見てきたが、今後同社はどんな展望を持って活動していく予定なのだろうか。
「来年のことを考えるにあたって、改めて2022年の1年間を振り返ってみると1年前がはるか昔のことのように感じます。2022年は、社名変更や米国進出など、会社としての大きな出来事が続きましたが、その中でも『弁護士法第72条』関連の問題提起という出来事はとても大きなものでした」(角田氏)
弁護士法72条は弁護士でない者の法律事務の取り扱いを禁じる法律だ。角田氏の挙げた「弁護士法第72条関連の問題提起」とは、2022年6月に政府のグレーゾーン解消制度により、法務省が「AIによる契約書等審査サービスの提供」について「弁護士法第72条本文に違反すると評価される可能性があると考えられる」との回答が為された出来事のことを指す。
大前提として、グレーゾーン解消制度は照会者の新規事業についての判断なので、既存事業には影響せず、さらによく読めば、法務省が指摘する「条項の具体的な文言からどのような法律効果が発生するかを判定する」ようなAI契約審査サービスは、既存事業者が提供しているサービスとは異なっており、適法となる場合についての解釈が示唆されていることが分かる。しかし、実際には「本件サービスは、弁護士法第72条本文に違反すると評価される可能性があると考えられる」という結論の部分が、報道で取り上げられて注目され、広く反響を呼ぶこととなってしまったのだ。
「この出来事は、私にとっても会社にとっても、またリーガルテック業界全体にとっても大きな出来事でした。弊社のプロダクトは提供開始時より適法に設計しており、全く問題はありませんが、その点について『きちんと理解いただけるような対応やコミュニケーションができたのではないか?』と何度も自問自答しています。それも含めて2022年は60点という少し辛めの自己評価ですが、2023年はこの点数を必ず超えられるような一年にしたいと思っています」(角田氏)
最後に、3名の社員数から始まった会社を約5年半で社員数445名のアメリカへの進出も果たす企業に成長させた角田氏に、その原動力を聞いた。
「原動力は『結果を出す』という執念です。スタートアップとして起業すれば、うまくいかないことももちろんたくさんあります。その時にいかに執念を持って活動できるか、これが起業の極意だと思っています」(角田氏)