京都大学(京大)大学院工学研究科機械理工学専攻は、これまで10年度間にわたって研究開発してきた「マルチマテリアル車体軽量化」向けのCAE(コンピューター支援エンジニアリング)利用技術の研究開発拠点を2023年4月に設ける予定を進めていると公表した。
このCAE研究開発拠点は、京都大の工学部・工学研究科系が配置されている桂キャンパス(京都市西京区)内に設ける予定。これまで研究開発してきた軽量車体を開発するためのCAEソフトウエアやそのデータベースなどを提供する計画を進めている。
機械理工学専攻の西脇真二教授の研究グループは、2003年度から10年間にわたって実施してきた「革新的新構造材料等研究開発プロジェクト」の中で、「マルチマテリアル車体軽量化」を実現する革新的設計技術の研究開発を続けてきた。その中核技術となったCAE利用技術をさらに進展させるためのCAE研究開発拠点構想の公表は12月20日に東京都千代田区内幸町のイイノホールで開催された「革新的新構造材料プロジェクト」の研究開発成果の中で公表されたものだ。
10年間にわたって実施された「革新的新構造材料プロジェクト」の中では、革新鋼板や高性能アルミニウム合金、高性能マグネシウム合金、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)などの新しい材料が研究開発されてきた。この研究開発された新しい材料群を適材適所に採用して、自動車などの“ビークル”の車体を軽量化かつ高性能化するためには、さまざまな材料を組み合わせて車体をつくる“マルチマテリアル構造設計”技術がポイントになる。西脇教授の研究グループは、マルチマテリアル構造設計に基づく車体開発に適したトポロジー最適化を基にした設計ツールの研究開発を続けてきた。その中核技術の1つがCAE技術開発だった。
西脇教授の研究グループは最近ではグラフィカル・ユーザー・インタフェース(GUI)ベースの最適化システムを開発し、最適形状から材料ごとのCAD(コンピューター支援設計)データを作製するシステムを開発し、その最適化を進めてきた。そして、開発目標となる車体の固有振動数とコンプライアンス(物体の変形しやすさを示す物理量)を同時に制約しながら、その車体質量を最小化するソフトウエアを開発し、車体の軽量化と各種性能を同時に満たすソフトウエアに仕上げつつある模様だ。
マルチマテリアル構造設計では、“革新鋼板”や高性能アルミニウム合金、高性能マグネシム合金、CFRTP(炭素繊維強化熱可塑性樹脂)などを採用した各部品を組み合わせる“マルチマテリアル構造設計”に基づく車体を設計する(各材料はまだ開発途上にある)。この際には、トポロジー最適化によって、各種の部品とそのアッセンブルした車体を設計し、剛性が高く、衝突時のクラッシャブルゾーンを最適化されていて、衝突安全性も高めた“マルチマテリアル最適化車体”を設計・開発し、実用化することを目指している。
現在は、この“マルチマテリアル最適化車体”の前面衝突、側面衝突、その時の最大変形量などの各種性能を確認できるCAEソフトウエアを開発しつつある模様だ。
「革新的新構造材料プロジェクト」は今年度(2022年度・2023年3月)で終了する。このため、京大大学院は、2023年度からは“マルチマテリアル最適化車体”の構造最適化計算・設計環境を整備し、マルチマテリアルCAE技術のソフトウエアとデータを整備したオープンスペースラボを構築する計画を立て、“マルチマテリアル最適化車体”向けのマルチマテリアルCAE技術を一層進化させる態勢に移行することになったのである。