内部に微細な隙間が無数にあり、さまざまな物質を吸着したり放出したりと便利な多孔質材料。その一種で、炭素や水素などの軽元素が組み合わさった「共有結合性有機構造体(COF)」の特に優れたものを合成した、と東京理科大学などの研究グループが発表した。3次元の網目構造を持ち、薬をゆっくり放出して効果的に働かせる性能を確認。さらに触媒や資源回収など、多彩な活用が期待されるという。
COFは炭素や水素、ホウ素、酸素などの軽元素が主成分の有機分子でできている。分子同士は一部の電子を共有する「共有結合」で強固につながり、MOFに比べ軽くて極めて安定した構造を持つという。特に結合が立体的な「3次元COF」は、物質が隙間に入りやすく有用とされる。ただ、立体に精緻に組み立てていくのが大変で、構造解析も困難。そのため、構造が正確に分かっているものは20種類ほどにとどまっていた。
こうした中、研究グループは新たなCOFの合成に挑戦。炭素と水素、酸素でできた立体型の分子と、炭素と窒素、水素でできた正方形平面型の分子をうまく組み合わせ、3次元網目構造の新たなCOF「TUS84」の合成に成功した。
TUS84の性質を詳しく調べた。セ氏500度まで加熱しても重さがほぼ変わらず、構造が非常に安定。内部の隙間部分も含めた表面積が大きく、また幅約0.97ナノメートル(ナノは10億分の1)の微小な隙間を持つことが分かった。水素や二酸化炭素、メタンといった気体の分子を効率よく吸着できた。
解熱剤や鎮痛剤の成分であるイブプロフェンをよく含む性質をみせた。イブプロフェンを含んだ状態で液に漬け込むと、12時間後で約24%、5日後に約35%と、MOFなどこれまでの多孔質材料に比べゆっくり放出した。この性質を利用すれば、患部など目的の場所に長期間、じわじわと薬を届けられるとみられる。投薬の量や頻度を抑え、患者の負担軽減につながる。
さらに研究し物質の吸着と放出をうまく制御できれば、化合物の精製や触媒反応、希少資源の回収など、多彩に利用できると期待されるという。研究グループの東京理科大学理学部第一部応用化学科の根岸雄一教授(ナノ物質化学)は「これまでのCOFの中でも、極めて利用可能性が高いものを見いだした。これが実用化されて全然おかしくない。COFはさまざまな薬などに合わせて隙間を設計できる。金属の回収や気体の分離など、環境・エネルギー分野にも貢献できるようトライしていきたい」と述べている。
成果は米材料化学誌「ACSアプライド・マテリアルズ・アンド・インターフェーシズ」に10月17日に掲載され、東京理科大学が12月5日に発表した。
関連記事 |