欧州のロケット運用会社アリアンスペースは2022年12月21日(日本時間)、小型ロケット「ヴェガC」の打ち上げに失敗した。

ヴェガCの打ち上げはこれが2機目で、今回が初の実運用かつ商業打ち上げだった。先代の「ヴェガ」ロケットから数え、衛星打ち上げの失敗は21機中3機目となり、欧州の宇宙輸送の信頼性、自立性に大きな疑問符がついた。

  • ヴェガC VV22の打ち上げ

    ヴェガC VV22の打ち上げ。この約2分24秒後に異常が発生し、打ち上げは失敗に終わった (C) Arianespace

2段目モーターに異常

ヴェガCロケットVV22号機は、日本時間12月21日10時47分(ギアナ現地時間20日22時47分)、南米仏領ギアナにあるギアナ宇宙センターから離昇した。

1段目の燃焼は正常だったものの、2段目の固体ロケットモーター「ゼフィーロ40(Zefiro-40)」の燃焼中に異常が発生。ロケットは予定していた飛行経路から徐々に外れていった。その後の2段目と3段目の分離、3段目モーターへの点火、フェアリングの分離などは行われたものの、やがて標準的な手順に従い、飛行を中断する信号が送られ、打ち上げは失敗に終わった。

搭載していた、エアバス・ディフェンス&スペースの地球観測衛星「プレアデス・ネオ5」と「同6」は、ロケットとともに大西洋上で大気圏に再突入し失われた。なお、人や地上への損害はなかったという。

アリアンスペースによると、ゼフィーロ40に異常が発生したのは、離昇から約2分24秒後、ゼフィーロ40の点火から約7秒後のことで、モーター内の圧力が徐々に低下。そして離昇から3分28秒後、圧力が急激に失われたという。地上のカメラは、異常が起きたとされる離昇から約2分24秒後、2段目モーターの燃焼ガスの形が不自然に大きく変わる瞬間を捉えている。

固体モーターは、モーターケースという筒状の箱の中で固体推進薬を燃やし、発生した高温・高圧のガスをノズルから噴射することで飛行する。圧力が失われたということは、モーターケースやノズルが破損するなどし、圧力が抜け、十分な推力が出なくなったということを意味する。

打ち上げ失敗を受け、アリアンスペースと欧州宇宙機関(ESA)は、独立調査委員会を立ち上げ、失敗の理由の分析を開始した。アリアンスペースとESAは連名で「この委員会は、失敗の理由を分析し、ヴェガCの打ち上げ再開を可能にするために必要な、すべての安全性と信頼性の条件を満たす措置を明確にすることを任務としています。委員会は独立した専門家で構成されており、ヴェガC打ち上げシステムの主契約者であるアヴィオ(Avio)と協力します」としている。

「委員会による調査が進み次第、より多くの情報を提供します」。

  • 異常が起きたとされる、離昇から約2分24秒後の2段目モーターの様子

    異常が起きたとされる、離昇から約2分24秒後の2段目モーターの様子。燃焼ガスの形が不自然に大きく変わっている (C) Arianespace

ヴェガCとは?

ヴェガCは小型の固体ロケットで、欧州の主力ロケットのひとつに位置づけられている。

ロケットの全長は34.8m、直径は3.3mで、高度700kmの太陽同期軌道に約2300kgの打ち上げ能力をもつ。ESAを中心とし、イタリアの航空宇宙メーカー、アヴィオが主契約者となり、欧州各国とウクライナの複数の航空宇宙メーカーが開発、製造した。運用はアリアンスペースが担当している。

ヴェガCは、従来運用していた「ヴェガ」をベースに、改良して開発された。たとえば第1段の固体ロケットモーターは大型の「P120C」に換装し、推力が大幅に向上。またP120は、開発中の大型ロケット「アリアン6」の固体ロケット・ブースターとしても使用されることから、シナジー効果によるコストダウンも図っている。こうした取り組みにより、ヴェガCはヴェガよりも打ち上げ能力が向上しながら、打ち上げコストは据え置きとなっており、コストパフォーマンスが向上している。

こうした能力を活かし、ヴェガの役割を引き継ぐとともに、小型・中型衛星の1機単位での打ち上げから、複数の小型衛星の同時打ち上げまで、さまざまな打ち上げ需要に応えることが可能で、欧州の官需衛星の打ち上げから、欧州内外の民間の衛星の商業打ち上げまで、幅広い活躍が期待されている。ESAと欧州委員会は11月、ヴェガCを使い、欧州の地球観測システム「コペルニクス」の衛星5機を打ち上げることを発表するなど、ヴェガCは現時点までに明らかにされているだけで13の打ち上げ契約を取り付けている。

ヴェガCは今年7月14日に1号機(実証機)が打ち上げられ、今回が2号機にあたる。また、初の実運用かつ商業打ち上げでもあった。打ち上げの執行も、1号機では欧州宇宙機関(ESA)とアヴィオが担当したが、今回の2号機からはアリアンスペースとアヴィオが担っていた。

  • 打ち上げ準備中のヴェガC VV22

    打ち上げ準備中のヴェガC VV22 (C) ESA-CNES-ArianeGroup-Arianespace-Optique video du CSG-JM Guillon

ヴェガ・シリーズの失敗は3機目、信頼性回復が急務

ヴェガCの先代にして原型にあたるヴェガは、2012年にデビューし、20機が打ち上げられたが(うち衛星打ち上げは19機)、2019年と2020年に1機ずつ失敗している。

2019年の失敗では、第2段モーターの前方ドーム部に燃焼ガスが入り込み、熱によって構造破壊したとされる。2020年の失敗では、ロケットの第4段にあたる液体ロケット段「AVUM」の配線ミスが原因だったと明らかになっている。

今回異常が起きたとみられるゼフィーロ40は、先代のヴェガにはなく、ヴェガCのために開発された新型モーターであり、したがって今回が2機目の飛行だった。新しいロケットが失敗することは珍しくなく、近年でも米スペースXの「ファルコン9 v1.1」が14機目で、また日本の「イプシロン」は6号機で失敗を経験している。

しかし、ヴェガ・シリーズとしては2019年と2020年に続き、通算3度目の失敗となったことで、品質管理をはじめとする欧州製ロケットの信頼性に大きな疑問符がつくことになった。商業打ち上げビジネスへの影響は必至だろう。ヴェガが2度失敗していることからも、信頼性の回復には厳しい目が向けられることになる。

また、少なくとも数か月の間、ヴェガCの運用が止まることは避けられない。欧州はすでに、ロシアのウクライナ侵攻にともない中型ロケット「ソユーズ」が使用できなくなっている。また、次世代大型ロケットのアリアン6の開発も遅れている。

アリアン6、また現行の大型ロケット「アリアン5」には、ゼフィーロ40は使われていないため、直接的な影響はないとみられる。しかし、固体モーターの品質管理の見直しなど、製造企業や工場にまでメスが入ることになれば、間接的に影響が及ぶ可能性はある。

欧州の宇宙輸送の自立性は大きく揺らぐことになり、大きな試練のときに直面している。

参考文献

Flight VV22 failure: Arianespace and ESA appoint an independent inquiry commission - Arianespace
Flight VV22: Failure of the mission - Arianespace
ESA - Flight VV22 failure: Arianespace and ESA appoint an independent inquiry commission
Vega C - Arianespace
PRESS KIT VV22 (EN)