九州大学(九大)は12月21日、65歳以上の大分県別府市民1万人以上に対するアンケートを実施し、「うつ」の既往の少なさに毎日の温泉利用が関連していることを見出したと発表した。
同成果は、九大病院 別府病院内科の堀内孝彦教授、同・前田豊樹准教授、同・山崎聡講師らの研究チームによるもの。詳細は、ヘルスケアの改善を目的とした全般を扱う学術誌「Complementary Therapies in Medicine」に掲載された。
高齢になると、環境の変化に加え、加齢に伴う衰えや病気なども増加し、うつになりやすいと考えられている。日本では近年、うつなどの気分障害の患者数は増加傾向にあり、厚生労働省の発表によると、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の蔓延前の2017年には127万人を上回っていたと報告されている。
そして世界204か国の調査では、1億9300万人だったうつ病患者数が、COVID-19の蔓延が始まった2020年だけで新たに5320万人も増加したと発表されている。日本でもCOVID-19の蔓延により、2020年の自殺者数が増加傾向にあり、自殺者はうつなどの気分障害を患っている場合が多いことも知られている。
そうした中で、以前よりうつの抑制効果が期待されてきたのが温泉の利用だ。しかし、温泉利用とうつの関連についての詳細は不明なままだったという。
そこで研究チームは2011年に、65歳以上の大分県別府市民1万人以上に対し、温泉の利用状況と既往歴に関するアンケート調査を実施したという。その結果、うつの既往の少なさに毎日の温泉利用が関連していることが明らかにされた。
今回の分析には、いくつかの要因から「2値の結果」が起こる確率を説明・予測することができる統計手法である「ロジスティック回帰分析」が用いられ、女性・既往歴として不整脈・脂質異常症・腎臓病・リウマチ疾患およびアレルギーがうつ発症のリスク因子だったという。そして、毎日の温泉利用がうつの少なさに関与していることがわかった。
今回の研究成果から、毎日の温泉習慣は気分障害の改善につながり、高齢者のうつ発症の予防に関連している可能性があることが判明した。研究チームは今後、より詳しい調査を進めるため、計画的な無作為比較試験の実施によるさらなる調査が必要としている。