カナダ・モントリオールで開かれていた国連・生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)は、最終日の19日に世界の陸と海の少なくとも30%を保全することを柱とする2030年までの新たな生態系保全目標で合意。合意文書を採択するなどして20日未明(日本時間同日午後)閉幕した。新しい目標は23項目で構成され、10年に名古屋市で採択されたものの取り組みが不十分だった「愛知目標」を引き継ぐ。
7日に始まった会議は一部の項目で交渉は難航した。しかし顕在化する気候危機や開発などにより世界の生態系が破壊され、生物多様性が急速に失われているとの危機感が各国間で共有されて合意に至った。今後196の締約国は、それぞれの対策や目標達成に向けた進捗(しんちょく)状況の報告が求められる。このため各国とも実効性ある対策をどこまで進められるかが問われることになる。
生物多様性COP15は2020年10月に中国・昆明で開催予定だったが、新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大のために延期され、開催場所も事務局があるカナダになった経緯がある。期限が切れた愛知目標の後継としての新目標は「昆明-モントリオール世界生物多様性枠組み」と名付けられた。
合意文書に盛り込まれた新目標の達成期限はいずれも2030年。現在ある程度保全されている陸域は17%、海域は10%であるのに対し、世界の陸地、内陸水域、沿岸地域、海洋の少なくとも30%を保全、管理することを掲げた。この項目は新目標の柱で「30by30」と呼ばれた。また生物多様性保持の観点から、重要な地域の損失をほぼゼロにすることも盛り込まれた。
対策に欠かせない資金問題については、生態系保全のための資金として公的、民間合わせて少なくとも年間2000億ドルを確保し、先進国から発展途上国への支援資金額を25年までに少なくとも同200億ドル、30年までに同300億ドルに引き上げるとした。一方、生物多様性の維持に有害な、乱開発などにつながる補助金を段階的に廃止し、30年までに少なくとも年5000億ドル減らすとした。会議では途上国が強く要請していた資金額の拡充に対し、激しい交渉の末、先進国が歩み寄った。
さまざまな廃棄物は土地や水を汚染し、生態系を破壊する。新目標は世界の食品廃棄物を半減し、プラスチック汚染や先進国を中心とした過剰消費を大幅に減らすことも明記した。そして多国籍企業や先進国の大きな金融機関に対し、企業活動による生物多様性への影響を監視、評価し、透明性をもって開示させることも求めている。
COP15開催を前に世界自然保護基金(WWF)は10月、「気候と生物多様性の危機は表裏一体の関係にある」と指摘し、「生物多様性の豊かさを示す指標の数値が過去48年で69%低下する」とする報告書を公表した。
新目標は、2030年までに現在の絶滅危惧種の絶滅を食い止めることや、生物の遺伝情報の利用で得られる利益を公平に配分すること、さらに50年までにすべての種の絶滅リスクを現在の10分の1にし、30年までに侵略的外来種を50%減らすとの数値も掲げている。
COP15会期中の15~17日には閣僚級会合が行われた。日本政府を代表して西村明宏環境相が出席。環境省関係者によると、同環境相は、途上国に政府開発援助(ODA)などを通じて2023年から25年までに1170億円を拠出することを表明し、会期中に新目標を採択する必要性を強調した。またウクライナ政府の担当大臣はロシアのウクライナ侵攻によって無数の動植物の生息地が破壊されたことを強調したという。
日本は国立公園などに指定する形で陸域の約21%、海域の約14%を保全している。これらの数値を今後8年程度で新目標が掲げる30%まで高めるためには新たに保全区域を増やすなどの対策を速やかに進める必要がある。こうした事情は多くの先進国も同じとみられ、実効性ある対策の速やかな策定、実施が求められる。
閉幕セッションで国連環境計画(UNEP)のアンダーセン事務局長は「合意に至るまで紆余曲折を伴う複雑な旅だったが重要な目的地に到達した。国連はこの新目標を速やかに達成するための支援の準備ができていることを保証するが、誰もが(今回の成果は)最初の一歩であることを知っている」などと述べ、参加各国の代表に目標達成に向けた努力を求めた。次回のCOP16は2024年にトルコで開かれる。
愛知目標は2010年に名古屋市で開かれたCOP10で採択された国際目標で「少なくとも陸域の17%、海域の10%を保全地にする」など、20年までの達成を目指して20項目を盛り込んだ。しかし、気候変動や開発などによって各国の取り組みが十分でなかったことなどから絶滅危惧種は増える一方で、生物多様性の喪失が進んだ。同条約事務局が20年に「完全に達成できた目標はなかった」とする報告書を公表していた。
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