早稲田大学(早大)は12月20日、国際宇宙ステーション(ISS)の「きぼう」日本実験棟に搭載されたカロリメータ方式の宇宙線電子望遠鏡「CALET」がホウ素の流量をテラ電子ボルト(TeV)領域まで観測し、宇宙線が銀河系内を伝播する様子を高精度に明らかにしたと発表した。
同成果は、早大 理工学術院総合研究所の赤池陽水主任研究員(研究院准教授兼任)、CALET代表研究者の早大 鳥居祥二名誉教授、イタリア・シエナ大学のPaolo Maestro研究員を中心に、神奈川大学・立命館大学・東京大学 宇宙線研究所・弘前大学・宇宙航空研究開発機構(JAXA)などの国内研究機関、およびイタリアや米国の研究機関の研究者も参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、米国物理学会が刊行する機関学術誌「Physical Review Letters」に掲載された。
宇宙線は、星の進化の過程で核融合により生成された元素が、特にその最終段階で超新星爆発などにより宇宙空間にばらまかれ、超新星残骸で生成された衝撃波によって加速されると考えられている。しかし、この衝撃波加速やその後の宇宙空間への拡散などについては、まだまだ不明な部分が多い。そしてその解明には、宇宙線諸成分のエネルギースペクトルの高精度観測が不可欠となる。
リチウム、ベリリウム、ホウ素(B)などの元素は、星の進化の過程では生成されないため、宇宙線が銀河系内を伝播する間に星間物質(ガス)と衝突して二次的に生成されたものであると考えられる。つまりこれらの原子核は、宇宙線が銀河系内にどれだけの時間閉じ込められ、どのように銀河系外へ漏れ出していくのかを知ることができる、貴重な情報をもたらしてくれるとする。
中でもホウ素は、それより少し重い炭素(C)が星間物質と相互作用して生成される確率が高いという。そのため、両者の比(B/C)の観測により、宇宙線が銀河内をどれくらいの距離と時間で伝播するかを明らかにできるとする。
宇宙線は銀河磁場によって散乱されて拡散的に伝播するため、エネルギーが高くなるほどより直線的に進む。つまり、地球に到達するまでの距離が短くなるのに比例して、星間物質との衝突確率が減ることになる。その結果、エネルギーが高くなるほどホウ素の生成確率が下がり、B/Cはエネルギーの増大とともに減少するのである。
この減少の様子(正確にはB/C比のエネルギースペクトルの形状)は、宇宙線の散乱に寄与する銀河磁場の構造や、宇宙線が衝突を起こす星間物質の分布を反映する。そのため、これらの理論的推測に基づく宇宙線の銀河内モデルが数多く提案されており、そのモデルの決定のために広いエネルギー領域でのB/C比の高精度な測定が望まれていた。しかし、高エネルギーになるほどホウ素の量は極めて少ない上、TeV領域では炭素の数%ほどに減少するため、観測は困難だったという。