東レは12月20日、ナノテクノロジーと繊維技術を融合し、「ポリメチルメタクリレート」(PMMA)を用いた、血液中の病因タンパク質を高効率に吸着する十字断面形状のナノ細孔繊維を開発したことを発表した。

  • (左)PMMA製十字断面形状ナノ細孔繊維の使用イメージ。(中央)断面像。スケールバーは100μm。(右)断面拡大像。スケールバーは500nm。

    (左)PMMA製十字断面形状ナノ細孔繊維の使用イメージ。(中央)断面像。スケールバーは100μm。(右)断面拡大像。スケールバーは500nm。(出所:東レWebサイト)

同社は、透析治療に用いられるPMMA製の中空糸膜型人工腎臓を、世界で唯一製品化している。PMMAは、タンパク質が吸着しやすい特性や良好な生体適合性を有していることから、今回のナノ細孔繊維に適用されることになったという。

また、繊維形状を形成する紡糸工程においては、2種類のPMMAが螺旋状に絡み合う「ステレオコンプレックス」という構造形成が利用された。これにより、数nmから数十nmまでの任意のサイズで繊維の細孔を発現させることができるようになったとする。

敗血症での炎症タンパク質や、自己免疫疾患での自己抗体、各種慢性疾患での原因タンパク質など、さまざまな疾患において標的となるタンパク質はそれぞれサイズが異なる。つまり、細孔のサイズを変えることで、目的以外のタンパク質は細孔の内部に入れない、もしくは内部でトラップせずに通り抜けさせ、目的のタンパク質だけを選択的に吸着することが可能となるのである。東レはこの選択性について、血液浄化用病因タンパク質吸着カラムを開発する上での基盤技術になるとした。

それに加え、繊維の断面を十字形状にすることで、繊維間の密着を抑制するだけでなく、体積あたりの表面積を増大させることにも成功。その結果、より高効率なタンパク質の吸着が実現されたとする。

なお血液浄化用途の場合には、吸着カラムの容量が大きいと体外に持ち出される血液量が増えるため、特に高齢者や子どもにとっては負荷となる場合があるという。そうした中、今回開発された繊維は高効率なタンパク質吸着が達成されることから、小型で高性能なタンパク質吸着カラムの実現が期待されるとした。

東レは今後、さらに患者が利用しやすく、小型で高性能な病因タンパク質吸着カラムの開発を進め、早期の実用化を推進していくとしている。