大阪公立大学(大阪公大)、エア・ウォーター、東北大学の3者は12月15日、結晶形(ポリタイプ)が立方晶(3C)のSiCの半導体材料「3C-SiC」の自立基板が500W/m・K超という、ダイヤモンドに次ぐ高い熱伝導率を示すことを、熱伝導率の評価と原子レベルの解析から実証したことを発表した。
同成果は、大阪公大大学院 工学研究科の梁剣波准教授、同・重川直輝教授、米・イリノイ大学のZhe Cheng博士、同・David G. Cahill教授、エア・ウォーターの川村啓介博士、東北大 金属材料研究所の大野裕特任研究員、同・永井康介教授、米・ジョージア工科大学のSamuel Graham教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。
シリコン(Si)原子と炭素(C)原子が相互に規則的に配列したSiCは、Siを上回る絶縁性・耐熱性・熱伝導性を有し、すでに一部の鉄道車両において搭載機器として利用されるなど、次世代のパワーデバイス用材料として実用化が進んでいる。
SiCには六方晶(4H、6Hなど)や立方晶(3C)など、原子配列の異なる複数種類のポリタイプが存在するが、4H-SiCや6H-SiCなど、六方晶を中心にパワーデバイスの研究開発・実用化が行われてきた。
そして3C-SiCは、六方晶系と比べて結晶構造が単純なことから、熱伝導率がより高いものと期待されていた。しかし海外の先行研究によれば、熱伝導率が90W/m・Kであり、6H-SiCの320W/m・Kよりも遥かに低い値と報告されており、なぜ理論通りではないのか謎に包まれていた。そこで研究チームは今回、3C-SiCに対し、高分解能の透過型電子顕微鏡(TEM)による観察と、X線ロッキングカーブ(XRC)法を用いた原子配列と結晶性の評価を行うことにしたという。
まず、Si基板上に厚さ100μmの3C-SiCを形成した後、Siを除去し、3C-SiC自立基板が作製された。そしてTEMによる観察が行われ、ナノレベルの結晶欠陥はなく、原子が規則的に配列していることが確認された。またXRCピークは半値幅が158arcsecと狭く、結晶が高品質であることが示されたという。
続いて、時間領域サーモリフレクタンス法を用いて、3C-SiC自立基板と厚さ1μmの3C-SiC薄膜の熱伝導率の評価が行われた。研究チームによると、自立基板においては、500W/m・Kを超える等方性の高い熱伝導率が得られたという。この値は、大口径材料の中ではダイヤモンドに次ぐ2番目に高い熱伝導率であり、放熱材料として使われる銅や銀の熱伝導率(室温で400W/m・K程度)を上回っていることがわかった。
また、厚さ1μmの薄膜状にした3C-SiC薄膜の熱伝導率は、同じ厚さのダイヤモンドよりも高いことも見出された。さらに、3C-SiC/Si界面の熱コンダクタンスは、異種材料界面中で最も高い値が示されているとした。
これらの結果により、「3C-SiCは六方晶と比べて結晶構造が単純であるにもかかわらず熱伝導率が低い」という長年の謎が解決された。つまり、結晶性や純度を十分に高めた3C-SiCであれば、その熱伝導率が理論通り六方晶よりも高いことが実証されたのである。
3C-SiCはダイヤモンドより低コストであり、かつ大口径ウェハの作製が可能なため、ほかの半導体材料と組み合わせることで高放熱性デバイスを実現できるという。また、3C-SiCはSi上に結晶形成が可能であること、3C-SiC/Si界面の熱伝導率が高いことから、集積回路の性能向上やフォトニクスへの応用が期待できるとした。