宇宙ベンチャー、アイスペース(東京)の月面探査計画「ハクトR」の着陸機を搭載した米スペースXの大型ロケット「ファルコン9」が日本時間11日午後、米フロリダ州のケープカナベラル宇宙軍基地から打ち上げられた。約47分後、着陸機を正常に分離し打ち上げは成功した。月面着陸は来年4月末の予定で、民間では世界初となる可能性がある。
ファルコン9は11日午後4時38分に打ち上げられ、同5時25分頃に2段機体から着陸機を分離した。アイスペースは同日夜の会見で、着陸機が地上との通信を確立し、姿勢や電力系も安定し順調に航行中であるとした。袴田武史最高経営責任者(CEO)は「素晴らしい打ち上げが実行できうれしい。複雑な機体を小さなチームでしっかり設計し作り上げたことが今、宇宙で示されつつある。民間の月探査は世界初となり、歴史的にも重要。気を抜かず運用し着陸を目指したい」と述べた。12日午前も機体は正常という。
順調にいけば約4カ月半後に月面に着陸する。打ち上げ後8日で着陸した1969年の米アポロ11号などに比べ、かなり遅い。これはハクトR着陸機が、地球や月の引力などを利用して燃料を節約できる「低エネルギー遷移軌道」を採用したため。燃料を浮かせた分、多くの荷物を搭載し、ビジネスの機会を最大化したという。中緯度にある「氷の海」近くの「アトラスクレーター」に着陸し、10日ほど機能する。
着陸機は脚を広げた状態の高さが2.3メートル、幅2.6メートル、燃料を除く重さ340キロ。アイスペースが独自に設計し、ドイツの民間施設で同社が主導して組み立てた。打ち上げ後の運用は、都内の同社管制室で、欧州宇宙機関(ESA)の世界5カ所のアンテナを使って行う。
機体にはアラブ首長国連邦の探査車、宇宙航空研究開発機構(JAXA)とタカラトミーなどが開発した超小型変形月面ロボット、日本特殊陶業の試験用の全固体電池などを搭載。側面にパートナー各社のロゴマークを掲げ、民間事業であることを印象づける。
アイスペースは先代の計画「ハクト」で米財団の月面探査レースに参加したが、2018年3月の期限までに達成できなかった(勝者なし)。ハクトRは16年から構想し、翌年に開発を開始した。今回の「ミッション1」に続き、24年に着陸機に独自の探査車を搭載する「ミッション2」を計画。さらに、米民間機の設計に参画し25年に着陸させる計画で、ノウハウを蓄積しながら月面事業の拡大を目指す。
無人機の月面着陸は旧ソ連と米国、中国が果たしているが、いずれも政府の活動。ハクトRが順調にいけば、民間が打ち上げた民間の機体が史上初めて着陸する可能性がある。一方、米企業が探査車などを積んだ着陸機を来年初頭にも打ち上げる計画で、実現すれば着陸時期はハクトRに近いとされる。
政府機関である宇宙航空研究開発機構(JAXA)は来年度、精密着陸技術の実証機「スリム」を国産大型ロケット「H2A」で打ち上げ、日本独自の月面着陸に挑む。
ファルコン9は全長70メートルの2段式で、打ち上げ能力は地球周回低軌道に22.8トン。2010年に初期型を初打ち上げ後、実績を重ねて市場に台頭している。国際宇宙ステーション(ISS)に向かう有人宇宙船「クルードラゴン」や物資補給機「ドラゴン」も運んでいる。価格の優位をアピールすると共に、17年には1段機体の再利用を実現するなど技術面も注目されている。今回はハクトR着陸機に加え、米航空宇宙局(NASA)の超小型月探査実証機を搭載した。
無人試験の米宇宙船「オリオン」、月から帰還
アポロ計画以来の有人月探査に利用する米宇宙船「オリオン」が、地球と月上空の間を往復する無人試験飛行を終え日本時間12日午前2時40分、メキシコのバハカリフォルニア州沖の太平洋に着水し帰還した。
オリオンは先月16日に大型ロケット「SLS」初号機で出発。月の引力などを利用して軌道を変えるフライバイを2回行い、月面に約130キロまで接近した。地球から最大約43万キロまで遠ざかるなどして性能を検証した。機械船を分離後、司令船が大気圏に突入しパラシュートを開いて着水した。
米国はオリオンなどを活用して2025年にも月面着陸を再開する計画で、月上空に建設する基地では実験などを行う。一連の国際探査計画「アルテミス」には日本も参画し、20年代後半に米国人以外で初となる月面着陸を目指している。
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