東芝は12月13日、独自の透明蛍光体技術として、新開発の新規化合物を用いることで、可視光下では無色透明だが紫外光下では強発光する「透明蛍光体」を開発することに成功したと発表した。
同成果の詳細は、12月14日~16日に福岡県で開催される国際学会「第29回ディスプレイ国際ワークショップ(IDW'22)」にて発表される予定だとするほか、同学会の展示会場にて、開発された透明蛍光体を用いた赤色LEDおよび蛍光フィルムを参考展示する予定ともしている。
1942年、Eu(III)錯体が紫外光を吸収し、可視光を発することが発見されて以降、希土類蛍光錯体の発光に関する研究が世界各地で進められてきたという。しかし、波長615nm付近の赤色領域にEuイオン特有のシャープな蛍光スペクトルを有し、かつ蛍光スペクトルの色相は溶媒体や蛍光体の濃度に依存しないことから注目を集めてきたものの、従来報告されてきたものは、溶媒に溶けにくく、無理やり溶かすと白濁してしまい、インクジェット法で利用できないという課題や、発光強度が弱いといった課題があったという。
Eu(III)錯体は、中心のEuイオンと有機化合物である配位子から構成されるが、従来の課題を有していたEu(III)錯体の多くが、1種類のホスフィンオキシドを配位したものであったという。同社では長年の研究の過程で2種類のホスフィンオキシドを配位させることで、蛍光強度が向上することを確認していたほか、そうしたEu(III)錯体は、ほかの錯体との比較においてヘキサンおよびフッ素系溶媒に対する飽和溶解度に優れることも確認していたという。ただし、実用化に向けては、さらなるEu(III)錯体の溶解性の向上による完全に無色透明な蛍光体の実現、ならびに高い色純度を維持したまま発光強度を増大することが求められていたという。
今回の研究では、これまでの異なる2種類以上のホスフィンオキシドをEu(III)イオンに配位させる分子設計コンセプトを踏襲し、探索を進めた結果、「非対称構造テトラホスフィンテトラオキシド配位子」を発見。同配位子を有する新規Eu(III)錯体複核錯体を創成し、透明蛍光体の発光強度のさらなる増大を実現。実にその発光強度は従来技術の約6倍となり、新開発のEu(III)錯体をポリマーに溶解すると、可視光下で完全に無色で透明性が高いが紫外線光下では色純度が高い赤色に強発光する「透明蛍光体」を得ることができることが確認されたとする。
具体的な構造としては、この2種類のホスフィンオキシドを有するテトラホスフィンテトラオキシド配位子は、2つのEu(III)イオンをブリッジする機能を有しており、「それぞれのEu(III)イオンに対して異なる2種類のホスフィンオキシド骨格が配位」しつつ「2つのEu(III)は互いに異なる配位環境」という新しい構造となっていることが確認され、この新たな構造により発光強度の向上と溶解性の向上が両立されたものと考えられるとしている。
また、開発された透明蛍光体は深紫外から紫色の波長(222nm~405nm)の光で励起し、615nm前後の赤色を発光することが確認されたとのことで、幅広い用途での活用が期待されるとしている。具体的な想定用途としては、マイクロLED/ミニLEDの透明蛍光膜や、新型コロナの除菌などに用いられる深紫外光(222nm)の可視化、透明であることを活用したセキュリティ印刷などを想定しているほか、有機リン系農薬「ジクロルボス」と作用すると、赤色の発光が瞬時に消光することも確認したとのことで、簡易的な残留農薬の有無の判定などにも使える可能性があるともしている(検出に用いられるEu(III)錯体は人体に無害であるとしている)。
なお、同社では、すでにサンプル提供が可能としているため、今後、幅広く活用してもらえるパートナーを募集しつつ、実用化まで進めていくことを目指し、2025年には量産を開始したいとしている。また同社では、Tb(III)錯体を活用した緑色発光も確認済みで、こちらは開発を進めている段階としている。