東北大学と埼玉大学は12月9日、アルマ望遠鏡とヨーロッパ南天天文台の超大型望遠鏡を使い、宇宙最大の爆発現象である「ガンマ線バースト」(GRB)の可視光と電波における偏光の同時観測を成功させたこと、併せて偏光を使わなければ見えない隠れたエネルギーを含めたGRBの本当の爆発エネルギーを推定したところ、これまでの推定の4倍以上となることがわかったと発表した。
同成果は、台湾・国立中央大学/MITOS Science CO., LTD.の浦田裕次氏、東北大 学際科学フロンティア研究所/同・大学院 理学研究科の當真賢二准教授、同・大学院 理学研究科の桑田明日香大学院生らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の天文学術誌「Nature Astronomy」に掲載された。
GRBは宇宙最大規模の爆発現象で、非常に高いエネルギーのガンマ線が短時間に観測される特徴が知られている。ショートとロングの2種類あることが知られ、前者は、中性子星同士や中性子星とブラックホールの合体によって発生するとされる。一方の後者は、特殊な大質量星が、その一生の最期に起こす爆発現象によるものと考えられており、宇宙最初の星であるファーストスターにおいても発生することが予想されており、宇宙の成り立ちを観測するためにも重要な天体現象だと考えられている。
またGRBはガンマ線だけでなく、そこから電波までの幅広い波長が観測されており、爆発エネルギー自体を直接見ることはできないが、さまざまな波長の観測データを集めて積算することで、どれくらいの爆発エネルギーだったかを推定することが可能だとされている。
ただし、爆発エネルギーが光に変換される際の効率がこれまで測定できていなかったという。この効率が低ければ、観測される光は爆発エネルギーのごく一部だけを見ていることになり、逆に高ければ、見える光だけを積算することで、爆発エネルギーを精密に測れることになることから、研究チームは今回、偏光を手がかりにこの効率を測定することにしたとする。
しかし、天文観測での偏光測定は容易ではない。しかも、GRBは遠方で起きることが多く、中には地球から100億光年も離れている場合もある。そうした光をさらに偏りに分割し、微弱な信号を取り出す必要があったことに加え、波長の異なる可視光と電波で偏光測定するには複数の種類の望遠鏡を用いる必要があることから、今回の観測ではヨーロッパ南天天文台の超大型望遠鏡と、世界最大の電波望遠鏡であるアルマ望遠鏡が用いられた。
今回観測されたGRB「GRB191221B」は、2019年12月21日に83億光年の彼方で発生した。日本がNASAなどと共同開発して、1000以上のGRBを捉えたX線観測衛星「すざく」の統計的な解析結果と比べることで、“典型的な”GRBであることが判明しているとする。
この典型的なGRBの残光の同時偏光観測は、爆発からわずか2日半後に行うことができたとする。偏光観測では、天体の明るさが暗いと有益な結果を得られないため今回は、爆発から最初の2日間は可視光と電波の残光の明るさが測定され、時々刻々と変化するGRB残光が十分明るいかどうかの確認を行う必要があったという。