東京大学発ベンチャーのPale Blueと宇宙航空研究開発機構(JAXA)の両者は12月6日、「JAXA宇宙イノベーションパートナーシップ(J-SPARC)」の枠組みのもと、JAXAが保有する「はやぶさ」「はやぶさ2」の開発・運用で培った知見や、同機関が進める電気推進機向けの低圧タンクに関する研究開発成果、またPale Blueが保有する電気推進機の開発・運用で培った知見および事業ノウハウに基づき、小型衛星用の超小型電気推進機事業を創造する「事業コンセプト共創活動」を始動することを共同で発表した。

  • 今回の共創活動の模式図

    今回の共創活動の模式図(出所:JAXA Webサイト)

Pale Blueの創業メンバーは、東大で、キセノンを推進剤とした超小型衛星向け30W級電気推進機の宇宙実証を行ってきた。その中で宇宙寿命や高圧ガス特有の取り扱いの困難さに直面し、安全性が高く、かつ持続可能なエネルギー資源である水を推進剤とした30W級電気推進機を開発し、2020年にPale Blueを創業したという経緯を持つ。

また同社は、衛星コンステレーションなどで市場拡大が期待される300W級電気推進機の実現に向けて、30W級電気推進機の開発実績に基づくとともに、カソード技術の改良が必要と考えたという。なおJAXAは初代はやぶさにおいて、世界で初めて電子源としてマイクロ波カソード技術の宇宙実証を行っており、はやぶさシリーズに搭載されているイオンエンジンでは中和器として使用されている。

今回Pale Blueは、JAXAとの対話を通じて、JAXAのはやぶさ・はやぶさ2に搭載されたマイクロ波カソードの技術成果を活用することで、開発リスクを低減し早期に新規市場獲得を目指す計画を構築した。一方のJAXAは、マイクロ波カソード技術を含むはやぶさ・はやぶさ2の開発・運用で培った電気推進技術情報の提供や支援を行うとした。

またJAXAは、将来の超小型衛星による深宇宙探査ミッションの実現には、30W級電気推進機の寿命性能を高め、また高圧ガス特有の取り扱い難易度と構造質量を低減する必要があると考察。特許出願中の金属有機構造体(MOF)技術を用いた低圧・軽量な電気推進向けの新たなタンク開発を、MOFに特化した京都大学発のスタートアップであるAtomisと連携して進めているところだ。

MOFは多孔性配位高分子とも呼ばれ、金属イオンと有機分子が特殊な配列で並び、ナノレベルの小空間を多数構成する有機無機ハイブリッド材料だ。この小空間を利用して、気体分子や低分子を選択的に吸着・吸蔵・分離・反応させることができるのが特徴である。MOF技術を用いることで、数kg未満の少量のガスを効率的に貯蔵でき、射場作業を簡便化し管理コストを下げることが期待されるとしている。