Lattice Semiconductorは米国時間の12月5日、オンサイトおよびオンラインの形で同社の新しいミッドレンジFPGAシリーズである「Lattice Avant Platform」を発表した。この発表会の様子を簡単にご紹介したい。

Latticeは2019年11月に、Samsungの28nm FD-SOIプロセスを利用したNexus Platformを発表、以後継続して半年に1製品の割合でプラットフォームを拡充、今年6月には5番目の製品であるMachXO5-NXを発表している。このNexus Platformの拡充は同社の売り上げを大きく伸ばす事に繋がっている(Photo01)訳だが、今回発表されたAvant Platformは、Nexus Platformとは別というか、より上位に位置する製品群となる(Photo02)。

  • 売り上げが伸びている

    Photo01:縦軸のスケールが何か変なので、数字を拾ってもらうのが確実だが、CrossLink-NXの売り上げが最初に計上された2020年第1四半期(9730万ドル)→2022年第3四半期(1億7230万ドル)と、ほぼ倍増しているのが判る

  • Avant PlatformはミッドレンジPlatformになる

    Photo02:Nexus PlatformはスモールFPGAに分類されるが、Avant PlatformはミッドレンジPlatformになる。なのでNexusをAvantで代替するわけではなく、Nexusの上位にAvantが来る格好だ。Xilinxで言えば、Artixの上にKintexが居る訳だが、これと同じ構図である

具体的に言えば、Nexus Platformは最大でも100K、殆どの製品が50K以下のLogic Cellだったのに対し、Avant Platformは最大500KのLogic Cellとより広帯域なメモリとI/O、それとより強力なComputation Powerを持つPlatformという訳だ。もちろん、このミッドレンジFPGAのマーケットにはXilinx/AMDのKintexとかAltera/IntelのArriaという競合製品が存在する訳だが、消費電力は2.5倍低く、性能は2倍、パッケージサイズは1/6としている(Photo03)。

  • 2014年頃にはECP5ファミリーをミッドレンジFPGAと位置付けていた

    Photo03:余談だが同社はかつて2014年頃にはECP5ファミリーをミッドレンジFPGAと位置付けていた(https://news.mynavi.jp/techplus/article/20140415-lattice_ecp5/)。当時はこれ(最大85K LUT)でもミッドレンジ扱いだった訳だが、流石に現在ではローエンド扱いである

このAvantによって同社のSAMは現在の2倍に広がる、というのがCEOであるJim Anderson氏のメッセージである(Photo04)。

  • AMD/Intel共にミッドレンジの製品が停滞している

    Photo04:昨今、AMD/Intel共にミッドレンジの製品が停滞しており、ここに勝機があるという見方そのものは理解できる

ちなみにNexusとAvantで内部構造が同じなのかどうか(=Bitstreamの互換性があるか)は現状不明(LUTは4ビット入力1ビット出力で同じ)だが、同社がNexus用に提供してきたSoftware SolutionはそのままAvantでも利用できるとしている(Photo05)。

  • 少なくともハードウェアそのものは全く異なる

    Photo05:少なくともハードウェアそのものは全く異なる(AvantはTSMC 16nm FinFETプロセスでの製造)

さてもう少し内部構造を。Avantは最大500KのLogic Cellを搭載する構成(Photo06)だが、これに加えてProtocol LogicなどをハードIPの形で持つことで省電力化に貢献する(Photo07)。

  • どう省電力化をTSMC 16nmで実現したのか、は今回説明はなかった

    Photo06:どう省電力化をTSMC 16nm FinFETプロセスで実現したのか、は今回説明はなかった

  • 主要な周辺回路に関してはプロトコルをFPGA Fabricを使わずにハードIPで持つ

    Photo07:主要な周辺回路に関してはプロトコルをFPGA Fabricを使わずにハードIPで持つことで、それだけ高効率に処理が出来、結果として省電力化できる。まぁこれは昨今のFPGAでは定番とも呼べる技法である。説明によれば数ダースのプロトコルに対応しているとの事

SerDesは25Gで、PCIe Gen4 x8にも対応可能であり、専用のコントローラも搭載される(Photo08)。またこれとは別にDDR5のI/Fも搭載する(Photo09)。

  • 25Gという事は、100GbEを直結する事も恐らく可能である

    Photo08:25Gという事は、100GbEを直結する事も恐らく可能である。最低でもx8分はあるから、100GbE×2が利用できることになるだろう

  • Photo09:遂にFPGAもDDR5が標準になる時期が来た

    Photo09:遂にFPGAもDDR5が標準になる時期が来た

演算エレメントとしてはFPGAのLUTにOn-Chip MemoryとDSPが組み合わされるが、このDSPが“tuned for AI inferenec”という点が特徴である。詳細は明かされなかったが、Convolutionの演算対応とか、FP8とかInt 1/2/4などのデータ型への対応なども施されているのかもしれない。また耐量子暗号に対応したセキュリティエンジンも搭載される(Photo11)。

  • 最大で1800個の18bit×18bit multipliersを搭載

    Photo10:一応スペック的に言えば、最大で1800個の18bit×18bit multipliers(8bitx8bitだと7200個)を搭載しているとされる

  • 耐量子暗号への対応

    Photo11:耐量子暗号への対応は、昨今のRoTとかSecure Elementでは必須になりつつあるので、これは妥当なところ

なお発表会では性能のデモとして、ビデオ映像から車のClassificationを行った例が流された(Photo12,13)。

  • alt属性はこちら

    Photo12:比較的識別しやすい場所での例だが、(こう言っては失礼だが)LatticeのFPGAを使ったとは思えないほど高速に、複数対象へのClassificationが行えていた

  • 比較的状況が悪いシチュエーションでの実施例

    Photo13:比較的状況が悪いシチュエーションでの実施例。モデルが結構複雑になっているように思える

ところで先ほど競合に比べて消費電力が少ないと説明された(Photo14)が、会場では実際にArria V GZとKintex-7、それにAvant-Eを並べた上で消費電力を示し、その省電力性をアピールした(Photo15,16)。

  • 消費電力はそのまま電力コストに繋がる

    Photo14:消費電力はそのまま電力コストに繋がるので、低いほど良いというのはまぁ当然のこと

  • Avant-Eは1Wだが競合製品は2W超え

    Photo15:全てのFPGAを100MHz動作させたケース。Avant-Eは1Wだが競合製品は2W超え

  • Avant-Eは3Wほど

    Photo16:350MHz駆動。Avant-Eは3Wほどだが、競合製品は6~7Wとなっている

またSerial I/Fが競合製品より高速(Photo17)として、実際にデモも行われた(Photo18)。

  • Kintex UltrascaleではなくKintex-7と比べるのは何故?

    Photo17:ただKintex Ultrascale(こちらは16.3Gbps)ではなくKintex-7と比べるのは何故? という気はするのだが。ついでに言えばKintex Ultrascale+だと32.75GbpsのGTYトランシーバが搭載されている

  • 12.5Gbps vs 25Gbpsで嘘ではない

    Photo18:まぁこれは12.5Gbps vs 25Gbpsで嘘ではない

これは恐らくちょっと説明が必要である。例えばArria V GZの場合、トランシーバそのものの最高速は12.5Gbpsである。同様にKintex-7も、搭載されているのは12.5GbpsのGTXトランシーバである。なので25Gbpsのトランシーバを搭載したAvant-Eは2倍高速という話な訳だが、Kintex Ultrascale+とかArria 10ではなくやや古い世代の製品と比較しているあたりは、同社の説明では、最大500K LC(ロジックセル)クラスの製品と比較したためだとしている。最後がパッケージ寸法で、これはまぁ見ての通りである(Photo19)。

  • 13mm×15mmは500K LCの製品

    Photo19:ちなみに13mm×15mmは500K LCの製品で、200K LCの場合は11mm×9mmのパッケージも存在する

同社は今後、NexusとAvantの2つをシリーズ展開してゆく事を改めて表明した(Photo20)他、2023年後半には同社としては初のDeveloper Conferenceを開催する事も明らかにした(Photo21)。

  • Photo20:Nexusも2024年度以降もまだラインナップが拡充されるらしい

    Photo20:Nexusも2024年度以降もまだラインナップが拡充されるらしい

  • この発想はやっぱりAnderson CEOがAMD出身である事と無縁ではない気がする

    Photo21:この発想はやっぱりAnderson CEOがAMD出身である事と無縁ではない気がする

ちなみにそのAvant Platformの最初の製品が「Avant-E」(Eはエッジの頭文字)であるが、最大500K Logic Cellと36MB Embedded Memoryを実装。初期化はI/Oだけなら10ms、Full Configurationでも60msで完了とされる。商用グレードと産業用グレードの両製品が用意されるとの事で、すでに一部製品は出荷開始済みだという。