日立製作所は12月2日、正極などにレアメタルを利用しない、環境に対して低負荷な「リン酸鉄系」リチウムイオン電池(LIB)の劣化状態を、非破壊で診断する技術を開発したことを発表した。

開発の詳細は、2022年11月8日~10日に福岡市で開催された「第63回電池討論会」にて発表された。

これまでLIBの主流であった、正極材料にコバルトやニッケルなどのレアメタルを用いる「三元系」LIBは、エネルギー密度が高く、低温時にも安定した出力が得られるという優れた点を有する一方、原材料の採掘・精錬場所の偏在や環境汚染、不安定な材料価格などが大きな課題となっている。そのため近年では、正極材などにレアメタルを含まず環境に対する負荷の低いリン酸鉄系LIBの需要が高まっている。2021年時点でのリン酸鉄系LIBの世界シェアは約20%だったが、2030年には40%まで拡大すると予想されている。

需要が広がるリン酸鉄系LIBを搭載した蓄電システムを高信頼化・長寿命化させるには、劣化状態を非破壊で診断できる技術が必要となる。日立はこれまで、LIBの容量と電圧の関係(以下、容量-電圧曲線)を解析することで、劣化要因である正極劣化・負極劣化・電解液中のリチウムイオンの失活を分離・定量化する非破壊劣化診断技術を開発してきた。

  • リン酸鉄系LIBの劣化要因の非破壊診断技術

    リン酸鉄系LIBの劣化要因の非破壊診断技術(出所:日立Webサイト)

しかしリン酸鉄系LIBでは、上図の容量-電圧曲線のグラフからもわかるように、横軸方向に平坦な領域が多く、正極収縮の影響が電池電圧に反映されにくいため、劣化量を正確に測定することが困難だったとする。そこで今回は、正極および負極内部のリチウムイオンの拡散係数が、それぞれの容量に応じて変化することに着目したという。

具体的には、リチウムイオンの拡散係数を定量評価できるよう、数十秒オーダーで放電を断続させながら容量-内部抵抗曲線を測定する。このデータを、あらかじめ測定された正極および負極単独での容量-内部抵抗曲線のデータと比較することにより、3つの原因ごとに劣化量を測定できることを見出したとする。このような容量-内部抵抗データ解析技術により、従来の三元系LIBの診断と同等の精度で、リン酸鉄系LIBの劣化状態を非破壊で診断可能になったという。

なお日立は今回の技術について、電池の材料、製造、充放電制御それぞれの技術分野の専門家が協働することで創生されたもので、三元系LIBの診断にも適用可能だとする。

また今後は、今回の技術を送配電事業者や電動モビリティのオペレータなどに広く利用してもらうことで、高効率かつ持続可能な蓄電システムの普及を促し、脱炭素社会の実現に貢献していくとした。