2011年の東日本大震災(マグニチュード9.0)で発生した大津波は、仙台湾に面した干潟の生態系に大きな影響を与えたが、10年足らずで生物群集がほぼ戻った。東北大学などの研究グループが発表した。ただ、人工的な環境改変の影響で戻っていない場所もあるという。
仙台湾沿いの多くの干潟では、津波で生物種がいったん激減するなどした。今回の津波は干潟の生態系にとっては、復旧しないほど大規模なものだったのか、または一時の撹乱(かくらん)に過ぎなかったのか。その後の変化に生態学の関心が寄せられてきた。
また、ある場所の生物群集は、固有の環境が決める場合と、偶然に先にすみ始めた種が優位を占めて決まる場合があると考えられる。前者なら大災害の後も環境が回復すれば元の種も戻るが、後者の場合、いったん環境が激変すると、回復しても次には別の種が増え、元に戻らないこともある。仙台湾の干潟はどうだったのか。
そこで研究グループは、震災前に生物調査をしていた6つの干潟の8地点で、市民ボランティア多数の協力で10年にわたり調査を続けた。
その結果、震災後2~3年は生物種が年ごとに変わったことが分かった。その後は環境が戻るにつれて震災前の種が見られるようになり、7~9年後には多くの干潟で、震災前と区別がつかないほど復旧していた。
一方、蒲生(がもう)干潟(仙台市)の奥1カ所では、9年経っても生物種が元には戻らなかった。ここでは震災前に茂っていた、生物の“隠れ家”となる多年草のヨシが壊滅したままだった。施設整備の影響が考えられるという。
こうした結果から研究グループは、大震災の津波は沿岸の生態系に対して不可逆の変化を与えるほどのものではなかったとの見方に達した。ただ、人手がかかわって環境が大きく変わると、生物群集も戻らない恐れがあることも分かった。また東北沿岸の生態系は偶然ではなく、環境の要因が決めたものだった。
研究グループの東北大学大学院生命科学研究科の占部(うらべ)城太郎教授(生態学)は「防潮堤が広域に建設されたが、こうした設備が生態系に与える影響も検討していく必要がある。自然の回復力をみることは、郷土を見直す契機にもなる。東北に限らず、災害列島である日本では生物を調査しておくことが、豊かな国土を次世代に引き継ぐために重要。息の長いプログラムが必要だ」と述べている。
研究グループは東北大学、国立環境研究所、埼玉県環境科学国際センター、宮城県仙台二華中学校・高等学校で構成。成果は米海洋学誌「リムノロジー・アンド・オーシャノグラフィー・レターズ」に11月10日掲載され、東北大学が22日に発表した。
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