東北大学は11月28日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の軽症~中等症I患者を対象に、漢方薬に急性期症状緩和と重症化抑制効果があることを確認したと発表した。
同成果は2つの論文にまとめられ、1つ目は東北大学 病院 医科診療部門 特殊診療施設 総合地域医療教育支援部 准教授(兼 東北大学大学院医学系研究科 漢方・統合医療学共同研究講座 特命教授)の髙山真氏、慶應義塾大学の吉野鉄大 特任講師、上都賀総合病院の小泉さやか氏、秋田大学の入江康仁氏、埼玉医科大学の鈴木朋子 教授、荻窪病院の藤井奨氏、医療法人社団理正仁会 香取医院の香取理絵氏、富山大学附属病院の貝沼茂三郎氏,石巻赤十字病院の小林誠一氏、東海大学医学部付属病院の野上達也氏、気仙沼市立病院の横田憲一氏、山崎 麻由子の山崎麻由子氏、弘前大学医学部付属病院の皆川智子氏、気仙沼市立病院の千葉茂樹氏、須田医院の須田憲男氏、湘南病院の中田佳延氏、北里大学 東洋医学総合研究所の石毛達也氏、江古田まえはらクリニックの前原浩史氏、兵庫県立尼崎総合医療センターの田中裕氏、吉祥寺中医クリニックの長瀬眞彦氏、給田ファミリークリニックの樫尾明彦氏、こまつ外科内科クリニックの小松和久氏、白川病院の野尻眞氏、岩手医科大学の下沖収 教授、大阪漢方医学振興財団附属診療所の中本かよ氏、東北大学病院の有田龍太郎 助教、東北大学病院の小野理恵氏、東北大学病院の齊藤奈津美氏、東北大学病院の菊地章子氏、東北大学病院の大澤稔氏、秋田大学附属病院の中永士師明氏、福島県立医科大学の三潴忠道 教授、慶応義塾大学の三村將 教授、東北大学病院の石井正氏、東北大学の後岡広太郎 特任准教授、東北大の邱士韡 助教、東北大の山口拓洋 教授、千葉大学医学部付属病院の並木隆雄氏、ホスピタル坂東の久永明人氏、三谷ファミリークリニックの三谷和男氏、証クリニック神田の伊藤隆氏らによるもので、「Internal Medicine」に掲載された。2つ目は、髙山真氏、並木隆雄氏、有田龍太郎氏、小野理恵氏、菊地章子氏、大澤稔氏、齊藤奈津美氏、東北大学の鈴木聡子氏、中永士師明氏、小林誠一氏、吉野鉄大氏、横浜市立大学附属病院の石上友章氏、東邦大学医療センター大森病院の田中耕一郎氏、後岡広太郎氏、東北大学病院の高木愛理 特任助教,三村將氏、山口拓洋氏、石井正氏、久永明人氏、三谷和男氏、伊藤隆氏らによるもので、「Frontiers in Pharmacology」に掲載された。
1つ目の研究では、2020年1月1日から2021年10月31日まで、日本国内の病院、医療機関からCOVID-19またはその疑いのある患者のデータを登録し、多施設共同、後ろ向き観察研究として実施したもの。全国23の医療機関より、実施された治療に関するデータ(従来の薬剤や漢方薬など)、および一般的な感冒様症状(発熱、咳、痰、呼吸困難、疲労、下痢など)の変化に関するデータをカルテから収集、登録し、発熱改善までの日数(体温37℃未満)や症状緩和と酸素投与が必要となる呼吸不全への悪化などに対し、漢方薬投与の有無などを比較したという。
1314例が登録され、962名の患者データが解析されたところ、528名が漢方薬を含んだ対症療法、434名が漢方薬を含まない対症療法を受けていることが判明。全体として、発熱およびその他の症状改善までの日数に群間差は見られなかったものの、対象をCOVID-19確定症例に限定し、ステロイド投与を受けず、発症から4日以内に治療を開始した症例で統計解析を行ったところ、呼吸不全への悪化のリスクは、非漢方群に比べ漢方群で有意に低い結果が確認され、使用頻度が多かった漢方薬は葛根湯と小柴胡湯加桔梗石膏の併用であり、薬物投与に関連する重大な有害事象に有意な群間差はなかったという。
2つ目の研究は、1つ目の研究結果を受けて、多施設共同ランダム化比較試験により、COVID-19急性期症状に対する葛根湯と小柴胡湯加桔梗石膏の追加投与の効果と安全性を検証したもの。
軽度および中等度のCOVID-19患者を、通常治療(解熱剤や鎮咳剤投与)を行う対照群と、漢方薬の葛根湯エキス顆粒(2.5g)と小柴胡湯加桔梗石膏エキス顆粒(2.5g)を1日3回、14日間投与するグループにランダムに割り付け、その効果を比較検討したところ、漢方薬群(81名)と対照群(80名)に症状緩和に関する有意差はなかったものの、競合リスクを考慮した共変量調整後累積発熱率では、漢方薬群の方が対照群より有意に回復が早かったほか、COVID-19中等度1患者における呼吸不全への増悪リスクは、対照群に比べ漢方薬群で低かったという結果が得られたとする。また、薬物投与に関連する有害事象に有意な群間差はなかったことも確認されたという。
これらの結果を受けて研究チームでは、葛根湯と小柴胡湯加桔梗石膏の併用は、解熱効果がありCOVID-19中等症I患者における呼吸不全への増悪抑制に貢献できる可能性が示されたとしており、安価な漢方薬の活用により、経済的・医療的なメリットも期待されると説明している。