ついにスペースXのStarlinkが国内で利用開始

KDDIは12月1日、初島(静岡県熱海市)においてSpace Exploration Technologies(以下、スペースX)の衛星ブロードバンドインターネット「Starlink(スターリンク)」をau通信網のバックホール回線として利用する基地局の運用を開始し、メディアを招いて説明会を開いた。

  • 初島の説明会会場

    初島の説明会会場

スペースXが開発したStarlinkは、高度約500キロメートルほどの低軌道上を周回する3000超機もの通信衛星を用いる衛星コンステレーションだ。従来の静止軌道上の衛星を用いる場合と比較して地表からの距離が約65分の1に近づくため、高速かつ低遅延な通信を可能としている。

今回、初島においてはauの音声通信やデータ通信のサービス品質を確保するため、Starlinkをバックホール回線として運用を開始する。同社によると、光ファイバー回線を利用した基地局と比較しても、遜色ない通信品質を確認しているという。

  • 初島に設置した基地局

    初島に設置した基地局

10月に会見を開いて報告していたように、同社はStarlinkを活用して、社会インフラの老朽化対応や、企業および自治体のBCP(Business Continuity Planning:事業継続計画)対策、山間部や島しょ地域のデジタルデバイドの解消などに寄与することを狙っている。具体的なタイムラインは明かしていないものの、初島を皮切りに今後全国約1200カ所に順次提供を拡大する。

  • Starlinkを用いた通信のイメージ

    Starlinkを用いた通信のイメージ

KDDIは今後、次の2つの方式でStarlink回線を提供する。1つは今回の初島のような、基地局を介したモバイル通信の提供だ。119番などの緊急通報や、普段利用している携帯電話の番号(0X0-)の利用を想定している。1つの基地局で半径500メートルから数キロメートル程度をカバーする。

もう1つは「Starlink BUSINESS」としての提供だ。こちらは海洋における船上での利用や、山間部の開発現場および従業員の宿舎での利用を見込んでいる。半径数10メートル程度のピンポイントな使い方が可能だ。Starlink BUSINESSは10月に発表されていたが、いよいよ年内に提供を開始するようだ。

  • 2つのStarlinkの活用法

    2つのStarlinkの活用法

開局セレモニーに髙橋誠社長が登場、新海誠監督らがコメント

KDDI代表取締役社長の髙橋誠氏は、ビートルズが初来日時に着用していた法被をイメージしたといういでたちで説明会に登場すると、「Starlinkを用いることで、光ファイバーが無くとも基地局を設置できるようになる。さらにソーラーパネルなどで電力を供給すれば、もともと何もない場所であっても通信エリアを拡大できるようになる」と述べ、今回の取り組みの意義を語った。

  • KDDI 代表取締役社長 髙橋誠氏

    KDDI 代表取締役社長 髙橋誠氏

KDDIはStarlinkの活用により、「日本のどこにいても、つながらないがなくなるように」というコンセプトの実現を目指す。社会インフラの老朽化対応など、先に述べた利用例に加えて、被災地での公共サービスの継続や、特に山間部の建設現場における安心安全な企業活動などを支援する方針だ。

auは新海誠監督のアニメーション映画『すずめの戸締まり』とコラボレーションcmの作成やタイアップコンテンツの提供などで手を組んでいる。髙橋社長は、映画劇中にStarlinkの基地局が登場すると紹介していた。

  • 『すずめの戸締まり』にStarlink基地局が描かれている

    『すずめの戸締まり』にStarlink基地局が描かれている

続いて、スペースXのVice President of Starlink Commercial Salesを務めるJonathan Hofeller氏が登場した。同氏は「当社の数1000個の通信衛星によって日本の方々の教育や保護に関われるのは、うれしい気持ちでいっぱいだ。KDDIとのパートナーシップによってこのような大きな影響を与えられる機会に感謝している。本日のこの1つの基地局から始まるKDDIとのコラボレーションに期待している」と興奮を隠し切れない様子だった。

  • スペースX Vice President of Starlink Commercial Sales Jonathan Hofeller氏

    スペースX Vice President of Starlink Commercial Sales Jonathan Hofeller氏

説明会の中で、髙橋誠氏とJonathan Hofeller氏が基地局の開局セレモニーとしてauの通信網とStarlinkを接続するパフォーマンスを披露した。これをもって、国内の離島でいよいよStarlinkを用いた通信が利用可能となった。

  • 開局セレモニーの様子

    開局セレモニーの様子

  • 開局セレモニーの様子
  • これまで圏外だったエリアに通信が届いた

    これまで圏外だったエリアに通信が届いた

初島での基地局の開局を記念し、早速つながったばかりのStarlink回線を利用して、『すずめの戸締まり』で主人公の岩戸鈴芽(いわとすずめ)を演じた原菜乃華氏と、FaceTimeによって髙橋誠氏が挨拶を交わしていた。

原氏は「すずめの戸締まりは、主人公の鈴芽が全国を巡りながらさまざまな土地の人と出会って成長していく物語であり、当たり前なものが当たり前であり続けることの難しさを描いている。通信も同様で、つながることが当たり前であるのは実は難しいことだと思うので、今回のKDDIとスペースXの取り組みを通じて『つながらないがなくなるように』が実現される未来を期待している」とコメントした。

  • 原菜乃華氏と通話する髙橋誠氏

    原菜乃華氏と通話する髙橋誠氏

さらに、新海誠監督も動画で以下のようにメッセージを寄せた。

「auとすずめの戸締まりのコラボレーションcmの中で、『日本のどこにいても、つながらないがなくなるように』のメッセージと共にStarlinkのアンテナを描いた。たくさんの人々のかけがえのない日常を、KDDIとStarlinkが支えてくれることを祈っている」

  • 動画でコメントを寄せる新海誠監督

    動画でコメントを寄せる新海誠監督

auが提供する新しいグランピング体験

KDDIは7月1日から、富士急グループのピカが運営するPICA初島とのコラボレーションとして、「PICA初島 RESPECT YOU, au」と題してauのテクノロジーを活用した新たなグランピング体験の創出を進める。

説明会と共にPICA初島のグランピング施設を体験してきたので、いくつかピックアップして紹介しよう。

遠隔カメラ「マチカメ」は、施設内のアクティビティを体験している様子をカメラで撮影する。自身では撮影が難しい構図から写真が撮れると人気なのだという。腕に装着したNFC(Near Field Communication:近距離無線通信)搭載のバンドを指定の場所にかざすだけで撮影を開始できる。撮影した写真は即時にマイページへ送信される。

  • リストバンドをかざして撮影を開始する

    リストバンドをかざして撮影を開始する

  • マチカメ撮影中の様子

    マチカメ撮影中の様子

マチカメは施設内に4カ所設置しているが、ここで撮影した写真は30秒ほどの「思い出動画」として自動的に編集され、チェックアウト後にダウンロードできる。

  • 施設内のさまざまなスポットで撮影できる

    施設内のさまざまなスポットで撮影できる

また、KDDIスマートドローンが運用する横幅約2メートルの運搬ドローンは、宿泊者に朝食デザートのジェラートを運んでくれる。

  • ジェラートを運搬するドローン

    ジェラートを運搬するドローン