文部科学省(文科省)傘下の科学技術振興機構(JST)は11月29日、「大学ファンドを通じた世界最高水準の研究大学の実現に向けて ~国際卓越研究大学構想への期待~」と題した公開シンポジウムを開催した(図1)。

  • 国際卓越研究大学構想を解説する講演会の表紙スライド

    図1 国際卓越研究大学構想を解説する公開シンポジウムの表紙スライド

この講演会は、科学技術振興機構(JST)が主催し、内閣府と文部科学省の共催として開催されたもの。この講演会に登壇した講演者を図2に示す。今回の講演者は、ここ5年程度、国際卓越大学院構想を議論してた方々である。

  • 同公開シンポジウムのプログラム

    図2 同公開シンポジウムのプログラム

この公開シンポジウムは、日本の国立・公立・私立の各大学の学長などの執行部に向けて、国際卓越大学院構想が目指す目標・狙いなどを解説し、この国際卓越大学院構想に応募する際のポイントなどを伝える目的で開催された。

具体的には、文科省が11月15日に「国際卓越研究大学の研究及び研究成果のための体制の強化に関する法律」を施行し、JSTが運営する10兆円の大学ファンドの運用益で支援する国際卓越大学院の公募が始まったことを契機に、内閣府と文科省、JSTなどが求める国際卓越大学院が達成する目標などを解説することを目的としていた(同時に、この国際卓越大学院の確立などを支援する関連予算となる令和4年度(2022年度)二次補正予算(案)が成立しつつあることも背景になっている)。

この国際卓越大学院構想の議論の中心メンバーである内閣府 総合科学技術・イノベーション会議の上山隆大 常勤議員(図3)が講演を行ったほか、文科省の担当者による趣旨などの講演や、パネルディスカッションを通して、政府・内閣府が目指している国際卓越大学院像の解説が行われた(図4)。

  • 上山隆大 常勤議員

    図3 司会・進行などを務めた内閣府 総合科学技術・イノベーション会議の上山隆大 常勤議員

  • 文科省が示した国際卓越研究大学構想の概念図

    図4 文科省が示した国際卓越研究大学構想の概念図

これは、国際卓越大学院を目指す各大学が提出する書類の提出が12月から始まる可能性があることを受けて、書類に不可欠な要素・項目の解説を行ったものとなる(注1)

注1:現在、「国際卓越大学院」の公募が始りつつあるが、日本の国立・公立・私立の大学院は、実際には各法律や予算などでは大学を基にしているために、「大学」と「大学院」が同等につながって表記されている。今回は、日本でのイノベーション創出を図るためには、国際卓越大学院という優れた大学院が日本には不可欠であり、卓越した大学院生(特に博士課程修了者)が不可欠という構想に基づいている模様だ。このため、イノベーション創出の起点となる卓越した大学院が求められている。

国際卓越大学院には、国際的に見て、世界トップクラスの研究成果を出す研究力が不可欠で、そのためには世界トップクラスの研究者を教員に招き、国内・国外から優秀な博士課程の学生を獲得し、優れた研究成果を上げることが必須とされる。そのためには、ジェンダーギャップを是正し、アカデミック・インブリーディング(自校の大学出身の教員を優先的に雇用しないという意味)を抑制するなどのダイバーシティ推進を実現する、先進性が高く分野横断型の博士課程プログラムを構築する、URAなどの研究マネジメント人材や技術職員などの専門職人材を積極的に登用するなどの研究環境の整備、グローバルに活動・展開する大学職員を採用し、その職員の意識・資質を向上させる環境整備などと、かなり細部にわたり大学院の構造改革を求めている。

その上で、意欲的な事業・財務戦略の構築も求めている。そして、優れた大学院の構造改革を実現するための年平均3%程度の支出成長率を可能とする事業成長率を求めている。この実現のために、当該大学院独自のファンド(運営基金)の構築などを求めている(注2)

注2:米国のハーバード大学、イェール大学、スタンフォード大学、マサチューセッツ工科大学(MIT)などの有力大学は、かなりの規模の独自ファンド(基金)を運営し、独自の事業運営を支える資金にしている。

2023年(令和5年)3月に公募を締め切り、応募する大学は国際卓越大学院の意向表明書と体制強化計画を提出する。2023年(令和5年)4月から約半年かけて、1次審査(書面審査)、2次審査(面接審査)を経て同年の秋ごろに国際卓越大学院の候補大学を現地審査し、体制強化計画の改良案を再提出させて、国際卓越大学院として認定する予定だ。そして、2024年(令和6年)4月から大学ファンドなどから、採択された国際卓越大学院への支援が始まる計画だ。

  • 公募・審査スケジュール

    図5 公募・審査スケジュール

当日の講演の様子