製薬大手エーザイは11月30日、米バイオジェンと開発中のアルツハイマー病の新薬「レカネマブ」について、最終段階の臨床試験(治験)で「症状の悪化を抑制する効果があった」とする詳しいデータを発表した。データをまとめた論文が同月29日付米医学誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」に掲載された。現在国内ではこの病気の進行を抑える薬は承認されていない。両社は日本で2022年度中に日本のほか米国や欧州連合(EU)で承認申請する予定で、23年中の承認を目指している。
レカネマブはアルツハイマー病の原因とされ、脳内に蓄積して神経細胞を壊す「アミロイドベータ」の除去を目的とする新しいタイプの薬剤。アミロイドベータが固まる前の段階で人工的につくった抗体を結合させて神経細胞が壊れるのを防ぐ仕組みだ。
治験データは米国サンフランシスコで開かれた「アルツハイマー病臨床試験会議」と呼ばれる国際学会で発表された。治験は日本や北米、欧州、アジアの235医療施設で早期アルツハイマー病と診断された患者の1795人(平均年齢は72歳、男女はほぼ半々)を対象に実施された。
治験対象者のうち、新薬レカネマブ投与群は898人、偽薬投与群は897人。新薬投与群と偽薬投与群にそれぞれ2週間に1回静脈注射し、投与開始から18カ月後に記憶や判断力などの認知機能や身体活動などを画像診断も駆使して総合的に詳しく調べた。
その結果、新薬投与群では、症状の悪化が27%抑制された。また、「ADCOMS」と呼ばれる早期アルツハイマー病の進行度などを評価する指標でも症状の進行は24%抑えられた。脳内に蓄積したアミロイドベータについても偽薬群では増加したが、新薬投与群では大幅に減少させる効果もあったという。
一方、画像検査では投与した患者の12.6%に副作用とみられる脳の浮腫が、17.3%に脳の出血が見つかったが、大部分は軽症で発見4カ月後には消失したという。また18カ月後も希望して新薬の投与を受けた1608人のうち2人が、偽薬投与群の897人のうち1人がそれぞれ脳出血で死亡した。
エーザイによると、新薬投与を受けて死亡した2人には合併症があり、脳梗塞の治療などに使われる抗凝固薬を併用していた。同社は「レカネマブが原因ではない」との見解を示している。
厚生労働省によると、アルツハイマー病は認知症全体の約70%を占める。軽い物忘れから徐々に進行し、時間や場所などに関する感覚が弱くなる。アミロイドベータが発症10~20年前から脳内に蓄積し、次第に神経細胞を壊していく。認知症の世界全体の患者数は5500万人以上いて、国内では2020年に約600万人、25年には700万人に達するとされている。
エーザイとバイオジェンはレカネマブに先行して似た薬効機序の新薬「アデュカヌマブ」を開発したが、厚生労働省専門部会は昨年12月、有効性を明確に判断するのが困難として承認を先送りした。レカネマブは昨年12月に米食品医薬品局(FDA)で迅速承認審査の指定を受け、現在審査中。
2000年代に入ると世界中でアルツハイマー病治療薬の開発が始まり、一時は100以上の候補があったが、病気の進行を抑える効果が認められて承認され、実用化に至った薬はない。レカネマブの治験結果についてエーザイは「認知症の大半を占めるアルツハイマー病患者の介護負担の軽減につながる可能性がある」と強調している。
関連記事 |