熊本大学は11月29日、インドの電波望遠鏡「uGMRT」を用いて、中性子星の一種「パルサー」を3年半にわたって観測し、電波望遠鏡を用いて恒星ブラックホール同士が合体する際に発せられる重力波を検出するための、長期間かつ超精密な観測が可能であることを実証したと発表した。
同成果は、熊本大大学院 先端科学研究部の高橋慶太郎教授、熊本大大学院 自然科学教育部の久野晋之介大学院生、同・大学院 教育部の喜久永智之介大学院生、同・大学の加藤亮研究員らと、インド・チェンナイ数理科学研究所などの研究者が参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、豪州天文学会が刊行する天文学術誌「Publications of the Astronomical Society of Australia」に掲載された。
天の川銀河中心の「いて座A*」のように、宇宙に存在する大半の銀河の中心には、太陽質量の数百万倍から100億倍ほどの大質量ブラックホールが存在すると考えられている。しかし、大質量ブラックホールがどのようにして形成されたのかは、今のところわかっていない。そこで研究チームは今回、大質量ブラックホールの起源の謎を解くため、重力波に着目することにしたという。
大質量ブラックホールの形成に関する仮説はいくつかあるが、その1つに恒星ブラックホールが次々に合体することで形成されたとするものがある。もしこの仮説が真実なら、10光年程度の波長を持つ重力波が放出されると考えられている。しかしこれまでのところ、そのような長い波長を持つ重力波は検出されたことがない。そのため、研究チームが実施しているのが、中性子の一種で、非常に規則的に電磁波を発しているパルサーを精密に観測することで、この重力波を捉えるという実験だという。
重力波というと、史上初の重力波観測を実現した米国のLIGOや、本格稼働を開始した日本のKAGRAなど、レーザー干渉計を用いた重力波望遠鏡でしか捉えられないイメージがあるが、電波望遠鏡でも非常に精密な観測を長期間行えば検出できる可能性があるとされてきた。ただし、その精度はパルサーからの電波が到着する時刻をマイクロ秒で計測する必要があり、それも10年以上も観測し続ける必要があるとされており、この長期間にわたる超精密観測を、いかに実現するかが課題とされてきた。
そこで今回は、インドの電波望遠鏡uGMRTを用いて、3年半にわたって計14個のパルサーの観測を継続的に実施することにしたという。その結果、多くのパルサーで数マイクロ秒、最も精度の高いもので0.759マイクロ秒の精度で到着時刻を測ることに成功したという。
また、パルサーからの電波の周波数による到着時刻の違いを解析することにより、宇宙空間に漂う希薄なプラズマの分布や運動を捉えることもできたとする。
なお、研究チームでは、今後も観測を続け、1マイクロ秒よりも良い精度で10年にわたってパルサーを観測することができれば、重力波を検出できる可能性を向上できる可能性があるとしている。そして重力波を検出できれば、合体しようとしている2つのブラックホールの様子がわかり、大質量ブラックホールがどのようにして形成されたかを解き明かすことができると期待されるとしている。