中国有人宇宙飛行工程弁公室は2022年11月30日、3人の中国宇宙飛行士を乗せた有人宇宙船「神舟十五号」の打ち上げに成功した。宇宙船はその後、「中国宇宙ステーション(CSS)」とのドッキングにも成功した。
3人の宇宙飛行士は約半年間、CSSに長期滞在する。CSSは一時的に6人体制となり、中国による本格的な宇宙ステーション運用が始まる。
神舟十五号を搭載した「長征二号F」ロケットは、日本時間11月30日0時8分(北京時間29日23時8分)、甘粛省北西部にある酒泉衛星発射センターから離昇した。
ロケットは順調に飛行し、離昇から約10分後、神舟十五号を分離して所定の軌道に投入した。
神舟十五号はその後、軌道変更を行いつつCSSに接近。そして打ち上げから約7時間後の30日6時42分、CSSとのドッキングに成功した。
神舟十五号には、司令官の費俊龍宇宙飛行士のほか、鄧清明宇宙飛行士、張陸宇宙飛行士の、計3人の中国宇宙飛行士(タイコノーツ)が搭乗。2023年5月までの約半年間、CSSに長期滞在する。
神舟十五号ミッション
神舟十五号は、中国にとって10回目の有人宇宙飛行ミッションであり、またCSSへ赴く有人飛行ミッションとして4回目、そしてCSSの建設段階における最後の有人飛行ミッションとなる。
ミッションの最大の目的は、CSSの建設完了と本格的な運用開始の橋渡しをすることにある。
CSSは中国が運用している宇宙ステーションで、高度約380km、軌道傾斜角(赤道面からの傾き)41.5度の軌道を周回している。建設は2021年4月、中核となるコア・モジュール「天和」の打ち上げから始まり、今年7月には科学実験モジュール「問天」が、そして10月には「夢天」モジュールが打ち上げられ結合。T字の形となり、完成を迎えた。
現在CSSには、6月から「神舟十四号」のクルー3人が滞在しており、そこに今回の十五号のクルーが合流。計6人の中国宇宙飛行士が滞在するのは初めてで、十四号のクルーが地球に帰還する今年12月までの間、両ミッションのクルーは共同でミッションを行うほか、CSSで行っている実験などの引き継ぎを行う。
神舟十三号と十四号の際は、十三号のクルーが地球に帰還してから約2か月後に十四号が打ち上げられており、軌道上ではなく地上で引き継ぎが行われた。CSSの完成により、今後は軌道上で2つのミッションのクルーが同時滞在し、軌道上で引き継ぎができるようになったことで、ミッションの効率や信頼性が高くなるとしている。
神舟十五号はまた、CSS完成後初の長期滞在ミッションとなる。ミッション中には、夢天モジュールの各種機能の点検や確認、実証を行うほか、15の科学実験機器の設置や立ち上げ、試験を行い、40以上の宇宙実験を実施。さらに、3~4回の船外活動が予定されており、夢天モジュールにある貨物エアロックを使った物資の移送など、これまで以上に複雑で多くの作業に挑むことになる。
神舟十五号と3人のクルーは2023年5月までCSSに滞在する予定で、次の「神舟十六号」のクルーと入れ替わる形で地球に帰還することが予定されている。
なお、神舟十六号のクルーはまだ発表されていないものの、宇宙船は「緊急救助ミッション」のため、すでに長征二号Fで打ち上げられるようになっており、万が一神舟十五号に問題が起きた場合に無人で打ち上げ、費氏らを乗せて緊急脱出できるよう準備されている。
神舟十五号の司令官を務める費氏は1966年生まれの57歳。中国人民解放軍空軍を経て、1998年に中国第1期の宇宙飛行士として選抜。2005年に、中国2回目の有人宇宙飛行ミッションである「神舟六号」の司令官として、聶海勝宇宙飛行士とともに5日間の宇宙飛行を実施した。今回が2回目の宇宙飛行となる。
打ち上げに際し、「神舟十五号のミッションは、中国宇宙ステーションの建設の最後の段階であるだけでなく、新しい段階の始まりでもあります。半年間のミッション中、作業はより困難に、複雑になります。ですが、私たちは多くのトレーニングを実施し、ミッションの成功に十分な自信も持っています」と語った。
鄧氏は1966年生まれの56歳。空軍を経て、1998年に中国第1期の宇宙飛行士に選抜。過去の神舟ミッションにおいて何回もバックアップ・クルーを務めたことはあったが、今回が初の宇宙飛行となり、第1期の宇宙飛行士グループの中で最後に宇宙を飛ぶことになった。
打ち上げ前の会見では、「(宇宙飛行士に選ばれてから実際に飛ぶまでの)この25年という歳月はとても長く、喪失感や涙を流したこともありましたが、決して迷わず、あきらめることなく歩んできました。宇宙飛行士として飛ぶという初心を貫き、訓練を止めないことを大切にしてきました。みなさんも夢を持ち続け、大義のために自分と闘うことを大事にしてください」と語った。
張氏は1976年生まれの46歳。空軍を経て、2010年に宇宙飛行士に選ばれた。今回が初の宇宙飛行となる。
打ち上げに際し、「宇宙の広さは魅力的で、終わりのない探検はわくわくします。無重力の素晴らしい感覚を経験することをとても楽しみにしています。CSSの建設に携わること、そして目に映る宇宙の美しさをすべての人に紹介することをとても楽しみにしています」と期待を述べた。
ロケットも射場も改良、新たな宇宙飛行士も
今回の神舟十五号ミッションに合わせ、中国は長征二号Fロケットを改良。神舟十四号を打ち上げた前号機と比較して、45か所の改良を行い、ロケットの信頼性をさらに向上させたとしている。
また、打ち上げが行われる酒泉衛星発射センターにも改修がくわえられた。同センターは冬期にはマイナス20℃にもなることから、これまでこの時期に有人打ち上げが行われたことはなかった。ただ、CSSの完成にともない、今後打ち上げが増えると見込まれることから、タンクや推進剤の供給ラインに温度調節機能をくわえるなどし、射場の地上設備が全面的に改修された。
ロケットと宇宙船にも、保温のための断熱材の追加などの対策が講じられている。
さらに、今後有人飛行の頻度が上がること、また1998年に選抜した第1期の宇宙飛行士が高齢化していることなどから、今年10月には新たに第4期宇宙飛行士の募集も始まった。
今回の選抜では、宇宙船のパイロットとして7~8人、技術者と科学者が5~6人の、合計12~14人が選ばれる予定となっている。また、今回の選抜では初めて、香港とマカオ市民も対象となっているという。
参考文献
・http://www.cmse.gov.cn/xwzx/202211/t20221129_51683.html
・http://www.cmse.gov.cn/xwzx/202211/t20221129_51633.html
・http://www.cmse.gov.cn/xwzx/202211/t20221129_51638.html
・China finishing busy Space station year with Shenzhou-15 - NASASpaceFlight.com